最新記事

動物

世界人口の6~7割が存在も魅力も知らないまま絶滅させられそうな哺乳類センザンコウを追うドキュメンタリー

Eye of the Pangolin: The Documentary Trying to Save the Most Trafficked Mammals in the World

2020年2月20日(木)16時25分
ローラ・パワーズ

どこか愛嬌も感じるセンザンコウ COURTESY OF EYE OF THE PANGOLIN FILM

<センザンコウは木に登る、保護されても脱走して自分の家に帰る、人に懐いて後を追う。そんな愛すべき動物が漢方薬のために殺され、今は「新型コロナウイルスの媒介者」と疑われ、種そして生存が危ぶまれている>

センザンコウは、密売が世界でもっとも多い哺乳類で、絶滅の危機に瀕している。その上最近では、新型コロナウイルスを媒介したという疑いもかけられている。だが同じ密猟対象でもゾウやサイと違うのは、世界人口の6~7割がセンザンコウの存在さえ知らないことだ。生態は謎だらけでミステリアスな反面、ときには犬や猫のように人間と絆を結ぶこともあるというセンザンコウの魅力とその残酷な運命を世に知らしめるために作られたドキュメンタリーがある。『Eye of the Pangolin(センザンコウの目)』だ。

<参考記事>新型コロナウイルスを媒介したかもしれない「センザンコウ」って何?

撮影班は、2年をかけて南アフリカ、ガーナ、中央アフリカ共和国、ガボンをまわって4種類のセンザンコウの生態と保護活動を追った。映画制作者のブルース・ヤングとヨハン・ヴァーミューレンも、撮影に入ったときにはセンザンコウのことをほとんど知らなかった。しかし、センザンコウに出会ってしまった多くの動物学者や保護活動家がそうであるように、彼らも、神秘的な半面、ペットのように人の後を追ってくることもあるセンザンコウの魅力に取り付かれてしまう。

webs200219-pangolins02.jpg

センザンコウと「恋に落ちた」ブルース・ヤング(右) COURTESY OF EYE OF THE PANGOLIN FILM


センザンコウはアフリカやアジアに生息しているが、そのウロコを漢方薬に使う中国人の需要を満たすためまずアジアで密猟に遭い、今はアフリカでも狩られている。2019年4月には、シンガポールの税関で、24トンのウロコが押収された。6万9000頭のセンザンコウの死に相当する量だ。

このドキュメンタリーでは、センザンコウの違法取引よりも、自然の生息環境で暮らすセンザンコウの生態にスポットを当てている。遠くにいてよく知らない動物だったセンザンコウの見たこともないようなユニークな生態と、はかない命を必死でつなごうとする姿がそこにある。人間に母親を殺された子どもを救い出し、何とか元気にして野生に戻そうとする活動家たちとの交流や悲しい別れも見ることになる。この作品を見た後は、センザンコウを知らないとは誰も言えなくなるだろう。作品をYouTubeで公開した制作者たちの願いは、世界中がこれを観てくれることだ。まだ間に合ううちに。

ブルース・ヤングは2019年に、この画期的なドキュメンタリー『センザンコウの目』の脚本を書き、みずから監督して制作した。南アフリカ、ガーナ、中央アフリカ共和国、ガボンで撮影されたこのドキュメンタリーは、アフリカに生息する4種のセンザンコウすべてをカメラに収めるという史上初のミッションに挑んだ2人の男の物語だ。ヨハン・ヴァーミューレンは、フリーランスの野生動物ドキュメンタリー映画制作者兼写真家で、南アフリカを拠点にしている。

(翻訳:ガリレオ)

20200225issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月25日号(2月18日発売)は「上級国民論」特集。ズルする奴らが罪を免れている――。ネットを越え渦巻く人々の怒り。「上級国民」の正体とは? 「特権階級」は本当にいるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド、米と約20億ドル相当の防空協定を締結へ

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中