最新記事

情報セキュリティー

モサド元長官が日本人へ語る「組織を率いる心得」

2020年2月7日(金)18時00分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

まずハクセムは防御するクライアントのネットワークを認識し、現在世界で発生しているサイバー攻撃を把握する。それを受けて、仮想の攻撃を担当する「レッドチーム」は、把握したサイバー攻撃で実際にクライアントのネットワークを攻撃し、ネットワークに脆弱性がないかを調べる。簡単に言うといわゆる「ペネトレーション・テスト(侵入テスト)」であり、擬似的な攻撃テストなのだが、現実に想定される攻撃をシミュレーションし、休むことなく自動的にテストを行う。

次に、攻撃に対する防御を担当する「ブルーチーム」は、攻撃を受ける可能性がある脆弱性の修正方法を探り、さらにレッドチームの攻撃を分析して、セキュリティーの穴を埋めるソリューションを提案する。また同社のシステムの特徴として、レッドとブルーの間に位置付けられる「パープル・チーム」の存在がある。これにより、レッドの攻撃側面とブルーの防御側面の両者からの情報に照らして、どのように攻撃が広がるかなどを自動解析し、総合的な評価を行うのだ。

このシステムには、モサドの「哲学」が生かされている。パルドによれば、「攻撃される前に対応しなければ意味がない......私たちモサドは、様々な興味深い経験をしてきた。イスラエルは建国以来、ずっと脅威にさらされてきた。とにかく、私たちそうした様々な脅威を、早い段階で排除する必要があった。すべては、イスラエルに安全をもたらすためだ」という。

サイバーセキュリティーの重要性をモサド時代から感じていたというパルドの目には、サイバー空間の現状はどう映っているのか。「私たちはここ10~15年で、プライバシーというものを失ってしまった。過去を振り返ると、私の自宅は他人を簡単には侵入させない、まさに"城"だったが、今はその"城"はスマートフォンになった。スマホにはありとあらゆるものが入っており、外部からでも、人々が何を見て、何を考え、今何をしているのかについて、情報を獲得できてしまう。あなたに危害を与えることもできる。これが今日、私たちが直面している脅威なのだ。子どもも含めたすべての人間がそんな世界におり、非常に注意する必要がある」

そしてこう付け加える。「インターネットなどから派生する便利なものが溢れる今日、私たちはサイバー脅威が現実のものであることにまず気が付く必要がある。SNSやテクノロジーからさまざまな利点を得ているが、反対に、リスクも大きい」

個人が様々なデバイスを手にし、SNSなどで情報を発信できるようになった今、私たちもサイバー攻撃を自分たちの問題であると自覚し、セキュリティー意識を持つ必要が出てきている。「いまだに、政府がすべてを解決できるという間違った考え方をしている人たちがいる。すべての企業、すべての地方都市などが自分たちで、サイバー攻撃には立ち向かうべきである」

これこそが、最近までモサドという組織の中から見て感じていた、サイバー空間の現実なのだ。

さらにパルドにモサドという組織そのものについても聞いた。『世界のスパイに食い物にされる日本』で詳述しているが、ここではその内容からいくつか紹介したい。筆者が最も聞きたかったのは、なぜモサドは世界有数の「凄腕」諜報機関とまで言われるようになったのか、だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇、聖職者による性的虐待被害者と初めて面会

ワールド

インドネシア大統領就任1年、学生が無料給食制度廃止

ワールド

財務相に片山さつき氏起用へ、高市氏推薦人=報道

ワールド

アングル:米ロ首脳会談、EU加盟国ハンガリーで開催
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中