最新記事

情報セキュリティー

モサド元長官が日本人へ語る「組織を率いる心得」

2020年2月7日(金)18時00分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)

モサド長官在任中のタミル・パルド(2015年2月) Ronen Zvulun-REUTERS

<世界有数の諜報機関、イスラエル・モサドの元長官が授ける、優れたリーダーの心構え>

イスラエルのスパイ活動を巡って、いま騒動が起きている。

米ポリティコ紙は昨年9月、イスラエルの諜報機関が過去2年間に、ホワイトハウスや、ワシントンの重要施設の近くで発見された携帯電話の盗聴デバイスを設置していた可能性が高いと、米政府とFBI(米中央情報局)が結論付けたと報じた。

そのデバイスは携帯電話の基地局を模した「スティングレイズ」と呼ばれる装置で、ドナルド・トランプ大統領やその側近などを標的にしていたとみられている。この報道を受けて、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、米国内でスパイ活動をする必要はないと完全否定している。

どちらの言い分が真実かはわからない。だが少なくとも、アメリカもイスラエルもどんな相手にでもスパイ工作を行える能力があり、程度はわからないが情報収集のための工作をしていることは間違いないと言えるだろう。

yamadybook-cover.jpg

イスラエルには、世界でも一目置かれている諜報機関が存在する。イスラエル諜報特務庁(モサド)である。世界中でイスラエルの国益のために様々な諜報活動や工作を行うこの組織は、現在でも、関与したと思われる工作がメディアで話題になる。おそらく、今回のスティングレイズのニュースも、事実であればモサドが絡んでいる可能性は高いだろう。

そんなよく知られたスパイ組織であるモサドだが、その歴史は建国後すぐの1949年に遡る。建国の父として知られる初代首相のダビド・ベングリオンがその設立を命じ、それ以降、世界中でモサドは国のために情報収集活動や暗殺工作を実施してきた。

筆者は昨年、2016年までモサドを率いていたタミル・パルド前長官への取材を許された。というのも、このパルド前長官は今、イスラエルで新たな「挑戦」に乗り出しており、その取り組みについて話を聞く機会を得たからだ。その挑戦とは、彼が元諜報員や軍の元ハッカーなどと開発した新たなサイバーセキュリティー技術で、世界各地で日常的に起きているサイバー攻撃に対抗しようという試みだ。

パルドは筆者の取材で、元モサド長官が開発したサイバーセキュリティー技術についてだけでなく、モサド前長官が凄腕スパイ組織のトップとして経験したことで感じた「組織を率いる心得」も語ってくれた。

35年にわたってモサドで働いたパルドは、モサドを知り尽くした人物で、そのDNAが体に染み付いている。2011年に第11代のモサド長官としてトップに上り詰め約5年間、モサドのトップとして組織を率いた。表の世界から裏の世界まで、私たちの計り知れない視野で世の中を見てきたパルドが、2016年の引退後、次に進む道として選んだのが、サイバーセキュリティーの世界だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ

ワールド

中国万科をS&Pが格下げ、元建て社債は過去最安値に

ワールド

鳥インフルのパンデミック、コロナ禍より深刻な可能性

ワールド

印マヒンドラ&マヒンドラ、新型電動SUV発売 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中