最新記事

温暖化否定論

森林火災で変わるか、温暖化否定のオーストラリア

Australians Are Ready to Break Out of the Cycle of Climate Change Denial

2020年1月17日(金)18時00分
ケタン・ジョシ(気候変動専門家)

2013年の総選挙以降、ニューズ・コーポレーションはすっかり勢いを失う。「風車症候群」の主張はなりを潜め、再生可能エネルギーは安定してオーストラリアの人々から支持されている。

オーストラリアのシンクタンク「ローウィー研究所」が2019年に実施した世論調査によると、回答者の61%が「例え相当なコストがかかったとしてもすぐに温暖化対策を行うべきだ」と答えている。また47%が、電力供給でも排出ガス削減を優先するべきと答えている。

2019年5月の総選挙では、一時的に否定論の勢いが増した。ニューズ・コーポレーション系列のメディアは、排出削減のより高い目標や電気自動車への助成金などを経済崩壊の前兆だと槍玉に上げた。しかしそのような期間はわずかで、ニューズ・コーポレーションは再び「ひとり相撲」へと後戻りした。

石油・天然ガス企業をどうしても守ろうとする豪メディアにとってさらに悪いことには、2019年は温暖化対策支持への転換点となった。社会問題の中で突然、温暖化対策が最優先の課題に浮上したのだ。

温暖化対策を求める昨年9月の街頭デモには数十万人規模の市民が参加した。温暖化対策を支持する普通の人々をかえって遠ざける、と批判されてきた過激な市民運動「エクスティンクション・リベリオン(絶滅への反逆)」の支持者も増え続けている。

<参考記事>温暖化に抵抗する新ムーブメント「絶滅への反逆」が世界で一斉デモ

上級顧問の1人が辞職

現在、オーストラリアでは森林火災が猛威を奮っているため、温暖化に対する世論にどのような影響を及ぼしているか分かりにくいものの、その心理的なインパクトがきわめて大きいだろうことはほとんど疑いようがない。

メディアが攻撃対象を失ったこと、温暖化対策への世論の支持が高まっていること、この夏、猛暑に見舞われていること――これらが一体となって、ニューズ・コーポレーションにある事態をもたらした。会社の上級財務顧問の1人が、同社の業務は「非良心的」だと強い言葉で非難するメールを全社員に送って辞職したのだ。

ニューズ・コーポレーションの日刊紙オーストラリアンが掲載した、温暖化の科学を同紙が正確に報道していると主張する社説は、オーストラリアの他のメディアから嘲笑された。温暖化に関する矛盾した見解を通じて、同紙が混乱して神経質になっているのは明らかだ。

オーストラリアのメディアを支配するというモンクトンの構想は失敗した。温暖化対策を求める圧力は強まるばかりで、森林火災が収束しても完全に消えはしないだろう。

殺処分されるオーストラリアのラクダ


オーストラリアの人々は、300ページの国連報告ではなく、自分の喉の渇きや庭に舞い落ちる森林火災の火の粉、そしてこげ茶色の煙に覆われた空を通じて、温暖化を体感している。これはすべての人々の生活を焼き尽くす災害で、これまでにない事態だ。

主流の気候科学を否定する主張は、報いを受けるべきだ。それは、単なる突飛な地球平面論と言うより、より有害な反ワクチン運動のようなものだからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中