最新記事

温暖化否定論

森林火災で変わるか、温暖化否定のオーストラリア

Australians Are Ready to Break Out of the Cycle of Climate Change Denial

2020年1月17日(金)18時00分
ケタン・ジョシ(気候変動専門家)

スカイニュースのこの滑稽なスタイルは、2012年前半のクリストファー・モンクトン(イギリスを拠点とする気候変動懐疑派の活動家)の発言の名残りかもしれない。モンクトンは「オーストラリア版のFOXニュース」をつくろうと提案した人物だ。「街頭でデモ活動をするよりも、ニュースメディアをまるごと手中に収める方がずっと効果的だ」と彼は言った。これが「ビジネス占星術師」を生む土台をつくったのだ。

さらに上をいくのがオーストラリアン紙。タブロイド紙やネットのコメント欄とは縁のない人々が読む「高級紙」だ。同紙は風力発電所の風車が出す低周波の騒音が奇形や体調不良の原因になるという「ウィンド・タービン・シンドローム(風車症候群)」論を展開した。子羊の奇形や黄身のない鶏卵も風車のせいだ主張する記事を載せるなど、長年にわたり気候変動の科学を否定してきた。一連の記事は将来、無数の人々を殺した「エセ科学」として歴史に残るだろう。

<参考記事>トランプの最新エセ科学:風力タービンは「がんの元」

最近の重要な例では、オーストラリアン紙は昨年9月から燃え盛る未曽有の森林火災について、放火で逮捕された人の数を「183人」と誤報した。実際に意図的な放火の罪に問われたのは24人。183人という数には、タバコのポイ捨てや無責任なバーベキューなど「火災に関連した罪」に問われた人が含まれている。だがこの誤った投稿と、同じく森林火災の原因として放火を誇張する右派のメディア「セブンニュース」のツイートが世界中に広まり、森林火災の原因は「温暖化による惨事をねつ造しようとする環境テロリストによる放火」だとする陰謀説が実しやかに流布された。

これらのメディアは、温暖化全般を否定するよりは、風車や森林火災のような個別の問題についてのフェイク情報を広めることに熱心だ。2010年代以降、世論が科学をより受け入れるようになったからだ。

2019年に調査会社「ユーガブ」が世界各国を対象に実施した調査によると、温暖化が人為的なものであること、または温暖化が実際に起きていることを否定した人はオーストラリアで10%だけだった。

世界的にみれば、オーストラリアは温暖化否定論に傾いているほうだ。しかし他の国々に比べて特別多いというわけでもない。アメリカでは15%、ドイツでは7%の人が温暖化や人間の関与を否定している。ノルウェーでもオーストラリアと同率の10%が否定論者だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、11月CPIが予想下回る 

ビジネス

トランプ氏、FRB議長候補のウォラー理事と面会 最

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩和の大統領令に署名 分類見直

ワールド

米政権、ICC判事2人に制裁 イスラエルへの捜査巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中