最新記事

中国経済

中国経済の強みと弱み──SWOT分析と今後の展開

2019年12月5日(木)11時00分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

一方、外部環境面の「Threat(脅威)」としては、香港などで起きている民主化要求が中国本土に波及する脅威を抱えている点や、米国による中国封じ込めの動きが西側先進国全体に波及して科学技術力の発展に水を差す脅威を抱えている点を挙げた。また、「Opportunity(機会)」としては、内陸部・農村部にはまだ開発余地が大きく残る点(特に金融包摂による経済発展)や、後発新興国の多い一帯一路に大きな開発余地がある点を挙げている。

中国経済は過剰設備・債務問題という大きな「Weakness(弱み)」があり、世界の先行事例を見ても新たな成長モデルは従来の成長モデルよりもスピードが遅いため、今後も経済成長の勢いは減速傾向を辿りそうである。但し、「Threat(脅威)」を抑制し、「Opportunity(機会)」を生かして、「Strength(強み)」を十分に発揮することができれば、その減速ペースは緩やかなものになると考えられる。

今後の展望

以上の分析を踏まえて今後の中国経済を展望してみた。

まず、2020年までは、第13次5ヵ年計画(2016-20年)で「6.5%以上」とした目標を達成するには6%強の成長率を維持する必要がある。また2020年は党大会(18大)で打ち出した所得倍増計画の目標年でもあるため、その目標を達成して中国共産党創設100周年(2021年)を迎えるためにも、6%強の成長率を維持する運営が求められる。従って、2020年までは米中対立による景気下押し圧力を緩和するため、財政・金融の両面で景気を押し上げる政策が取られる可能性が高いだろう。

Nissei191203_13.jpg

一方、そうした財政・金融に頼った経済運営は持続できる可能性が低いため、第14次5ヵ年計画(2021-25年)に入る2021年以降は、高齢化に伴う将来の財政負担増に備えて財政赤字を減らし、最大のリスクである過剰設備・債務問題の解消に向けて債務圧縮(デレバレッジ)を推進すべく、成長率目標を大幅に引き下げざるを得なくなるだろう。但し、イノベーションによる成長力向上が期待できるため、第14次5ヵ年計画(2021-25年)の成長率目標は「5%前後」にすると予想している。さらに、第15次5ヵ年計画(2026-30年)に入る頃には、一人当たりGDPが2万5千ドルと現在の台湾並みに上昇する見込みであるため、欧米先進国との競争が激しさを増して、イノベーションの勢いは鈍化してくるだろう。従って、成長率目標は「3.5%前後」へ引き下げざるを得なくなると予想している(図表-13)。

Nissei_Mio.jpg[執筆者]
三尾 幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部 上席研究員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エネルギー非常事態宣言へ 価格低減目指

ビジネス

トランプ氏の仮想通貨「$トランプ」急騰、時価総額1

ワールド

トランプ氏、政府効率化省新設の大統領令署名へ 透明

ワールド

トランプ氏、インフレ抑制の大統領覚書署名へ=次期政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 3
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ?(ショベルカー・サイドビジネス・シーサイドホテル・オーバースペック)
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 8
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    なぜリベラルは勝てないのか?...第2次トランプ政権発…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中