最新記事

アメリカ政治

トランプから「弾劾された大統領」の汚点は消えない、永遠に

Impeachment Is a Permanent Stain

2019年12月23日(月)16時50分
リリ・ルーフボロー

magw191223_Impeachment2.jpg

弾劾されたビル・クリントンと妻のヒラリー REUTERS

弾劾が政局化されたため、今後は誰が大統領になっても、必ず弾劾されるのではないか。そんな懸念も一部にはあるようだ。共和党と民主党の対立で弾劾が恒例行事のようになれば、政治が機能不全に陥りかねない、というのだ。

これには苦笑を禁じ得ない。自分たちがもともとやるつもりだったことを民主党のせいにするのは、共和党の得意技だ。共和党はまだヒラリー・クリントンが大統領になっていないうちから彼女を弾劾するための策を練っていた。

もちろん、これからも弾劾の動きは相次ぐだろう。共和党はトランプの卑劣なゆすりが例外的な愚挙であることを隠すため、似たような問題を次々に作り出すはずだ。

共和党はトランプが弾劾されてもされなくても、同じような手法を使っていただろう。そうではないようなふりをするのはバカげているし、弾劾が常態化するのを防ぐためと称して、違法行為を許すのもバカげている。

もっと言えば弾劾が常態化しても、それは必ずしも最悪の事態ではないかもしれない。行政府が肥大化し、その権限を誰も制限しようとしない場合、たとえ政局化した弾劾であっても大統領が絶えず議会の監視の目にさらされるのは悪いことではない。

大統領の評価に弾劾が及ぼす長期的な影響については、弾劾が実現しなかったジョージ・W・ブッシュ元大統領の例を見れば分かる。ブッシュは虚偽の口実でイラクに侵攻。その結果、多くの尊い命が失われ巨額の血税が戦費につぎ込まれたが、公式には誰もその責任を問われなかった。

ビル・クリントンの輝きが薄れる一方で、ブッシュはホワイトハウスを去った後、なぜか人気が出た。皮肉にもトランプのおかげでブッシュの株が上がったとも言える。アメリカばかりか世界全体に深刻な痛手を与えたにもかかわらず、トランプと比べればブッシュはまだしも見識ある政治家に見えてしまうからだ。

magw191223_Impeachment3.jpg

弾劾を免れたブッシュの「その後」はクリントンとは大きく異なる REUTERS


「トランプの弾劾など誰も気に掛けていない」と言われるが、異常なまでに気に掛けている人間が1人いる。トランプその人だ。弾劾について絶えずツイートし、下院議長宛てにどうか弾劾は勘弁してくれと、長々と泣き言をつづるありさま。自分の本性が暴かれて業績に汚点が付くのを避けたい一心なのだ。だが残念ながら悪あがきはむなしい。

下院議長宛ての手紙に「最も頑強に最も力強く」弾劾に抗議すると書いたトランプ。かつて「トランプ大学」で受講生をだまして高額な授業料を巻き上げ、不正行為を働き、外国政府をゆすった男は今や、当然の報いを受けようとしている。彼が周囲の連中を泥水のプールに引きずり込み、盛大な泥しぶきで事実を隠そうとしても、既に書かれつつある歴史は消せない。

そして、もう1つおまけがある。上院共和党がいかにトランプに屈服し、いかに有権者を裏切ってトランプの自己利益に尽くしているかアメリカ人はまだよく分かっていない。これから始まる裁判でそれがはっきり分かるはずだ。

©2019 The Slate Group

<2019年12月31日/2020年1月7日号掲載>

【参考記事】トランプの成績表:サイボーグ超えの破壊力で自国の評判を落としたが...
【参考記事】トランプ弾劾、歴史的訴追でも「盛り下がって」いる理由

2019123120200107issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中