「慰安婦」はいかに共通の記憶になったか、各国学生は何を知っているか
グラック教授 もちろんそうですね。慰安所というのは、あえて一般的に呼ぶならば、軍の売春宿のことです。当時、慰安所は軍にとっては珍しいものではなく、それぞれの国の軍隊が売春宿を持っていました。軍人たちは慰安所の存在をもちろん知っていましたし、それは戦争の一つの側面でした。では、軍人のほかにその存在を知っていたのは誰ですか。
マオ 歴史的には皮肉なことかもしれませんが、戦後、米軍が日本を占領していたときにも同じような施設があったと思います。もっと聞こえがいい名前に変えて......。
グラック教授 「余暇・娯楽協会」ですね(Recreation and Amusement Association。日本占領期、連合国軍による一般女性に対する性犯罪を防ぐために日本政府が設置した特殊慰安施設協会。「余暇・娯楽協会」の売春宿は設置から7ヵ月後にGHQによって廃止された)。
日本占領期の売春についても語れることは多くありますが、ここで重要なのは、軍のための売春宿は見慣れない存在ではなかったという点です。 戦後、慰安婦について知っていたのは、まずは慰安所を利用したことがある人間と、元慰安婦たち自身でした。しかしながら、彼らや彼女たちはそのことについてあまり語らないですね。なぜ語らないのでしょうか。
ニック 汚名を着せられるからでしょうか。
グラック教授 元慰安婦にとっては、汚名とトラウマが理由でしょうね。元慰安婦は家族の元に帰ったとしても、自分の身に起きたことについて語らない場合が多いです。ではなぜ、慰安婦の話は戦争の物語に組み込まれていなかったのか。戦争の物語では被害者の存在が重要視されるものです。原爆の被害者や国内で戦争を経験した人々の話は出てくるのに、なぜ慰安婦は登場しなかったのでしょうか。
※第2回に続く:韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち
※第3回はこちら:韓国と日本で「慰安婦問題」への政府の対応が変化していった理由
『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義―学生との対話―』
キャロル・グラック 著
講談社現代新書
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