最新記事

コロンビア大学特別講義

9.11を経験したミレニアル世代の僕が原爆投下を正当化してきた理由

2019年8月15日(木)17時10分
スペンサー・コーヘン ※現代ビジネスより転載

これらの対話を通して、私は祖父が(おそらく無意識のうちにだが)アメリカで語られるある1つの記憶、つまり原爆は「正義」であるという国民の物語の語り部になっていることに気付き始めた。

彼はダイニングルームのテーブルにつきながら、またはボードゲームをしながら、あるときは暖炉の前で自分の記憶について話をし、私は祖父の話に疑問を持つことなく聞き入った。原爆が落とされたことで、と彼は言った。日本本土への上陸はなくなり、おかげで自分と多くの仲間たちの命が救われたのだ、と。

アメリカの文化批評家ポール・ファッセルは1981年に「原爆投下を神に感謝」と題したエッセイを書いたが、こうしたストーリーは退役軍人だけでなくアメリカ社会全体にも受け入れられたものだった。アメリカ国民は私たちミレニアル世代に至るまで、総じて原爆は神聖かつ不可欠だったという見方を持ち続けてきた。

パールハーバーと9.11

「戦争の記憶」について学んでいる私がなぜ、無意識のうちに「原爆は正しかった」というたった1つの物語を受け入れてきたのか? 「私でさえ」、と今となっては自分でも思うのだが、祖父によって語られる国民の物語に囚われてきたのだった。

原爆を正当化する物語というは、歴史から切り離されたものではなく、むしろ「あれは『善い戦争』だった」というアメリカのより大きな物語の中に埋め込まれている。

ハリウッド映画を通してB-29の無敵の搭乗員たちや硫黄島への猛攻撃に描かれるアメリカ人の英雄物語を観てきた私は、第二次世界大戦とは善VS悪、抑圧VS自由、文明VS野蛮の戦いであるという物語にどっぷり浸っていた。原爆投下はアメリカ人にとってはこの戦いの終わりに位置づけられ、一方で始まりにあるのが真珠湾攻撃だった。

コロンビア大での第1回目の対話でグラック教授は、アメリカ人、日本人、韓国人、シンガポール人などから成る私たち学生グループに「パールハーバーと聞いて何を思い浮かべるか」と質問した。アメリカ人のうち何人かは2001年の映画『パール・ハーバー』と答え、一方で私のように愛国的な気持ちを連想した者もいた。

私はこのときも祖父の話を思い出していた。彼にとってパールハーバーは、70年が経っても、本土への攻撃を目の当たりにしてアメリカ全体が団結した「あの瞬間」として思い出され、気持ちを高ぶらせるものだった。

そしてグラック教授が過去とは現在の視点を介して理解されるものだと指摘したように、私自身も他の同世代と同様、パールハーバーを2001年のニューヨークの世界貿易センタービルへの攻撃を通して知ることとなった

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中