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コロンビア大学特別講義

9.11を経験したミレニアル世代の僕が原爆投下を正当化してきた理由

2019年8月15日(木)17時10分
スペンサー・コーヘン ※現代ビジネスより転載

9/11当時、私はまだ7歳だったが、自分が生まれ育ったニューヨークが傷つきながらも立ち上がろうとする空気に包まれていたことを今もはっきりと覚えている。パールハーバーと9/11は多くの部分で同列には並べられないが、この2つはアメリカ人の意識の中では1本の線で結ばれている。

これらは2つとも、アメリカが本土攻撃を目の当たりにした瞬間だったのだ。9/11が私の気持ちを高ぶらせるのと同じように、パールハーバーは祖父の記憶に当時の感情を呼び起こすのだろう。

疑問符がついた「原爆の正しさ」

退役軍人でありアメリカの物語の語り部である祖父ハロルドは、戦争の複雑さや自分の中にある愛国心が見えていなかったわけではない。彼にとって第二次世界大戦とは「善い戦争」だったが、ベトナム戦争をはじめアメリカの国外での行動すべてを正当化していたわけではなかった。つまり、彼が私に語った過去はすべて一様だったわけでも、私に愛国心を植え付けようとするものでもなかった。

実際にコロンビア大での対話の素晴らしかった点は、グラック教授が解体していった物語が単に右派やナショナリスト、もしくは左派が語るようなある極端な記憶だけではなかったことだ。むしろ教授が浮き彫りにしていったのは、これらの記憶が「善い戦争」というストーリーと同じように、祖父母によって語られたり、大衆文化によって確立されたり、現在の政治状況によってお墨付きを得たりして、社会全体に広がっていったということだった。

私は現在、東京大学大学院で日本のアジア・太平洋戦争の記憶について学んでいる。今はヒロシマとナガサキで起きたことの恐怖について、日常的に触れる機会がある。映画『この世界の片隅に』(2016年)や、広島逓信病院長を務めた蜂谷道彦の「ヒロシマ日記」や、鶴を折り続けた佐々木貞子の物語を前にして、私が小さいときから聞かされてきた「原爆は正しかった」という物語に疑問符が付き始めた。

あのような残虐なやり方で多くの民間人を殺したあの爆弾が、どうしたら正当化され得るのか。原爆投下は、まして2つの原爆は、戦争を終わらせるのに本当に不可欠だったのか?

祖父が原爆を正当化するのも、広島の物語も、アメリカや日本においてある極端な政治思想として語られてきたものではない。むしろこれらは、個々人が過去の体験を理解するために紡ぎ出した物語だった。あと一歩で死ぬところだった局面からの生還の話なのか、愛する人を失った話なのか、自分の身体が傷つけられた話なのか――。

以前から自分自身の中にある偏見に自覚的になろうと意識してきたとはいえ、コロンビア大での対話は、自分の家族の物語、または個人的な記憶を他者の前にさらし、公開の場で検証するという貴重なチャンスをくれた。

私が持っていた戦争の記憶というのは、グラック教授が明らかにしてくれたように、家族の物語と、それぞれ違う多数の国の物語と、過去が現在にも重くのしかかり続けるこの状況がもつれ合った結果、生み出されたものだったのだ。


『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義―学生との対話―』
 キャロル・グラック 著
 講談社現代新書

※当記事は「現代ビジネス」からの転載記事です。
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