最新記事

北欧

社会民主主義モデルが北欧を豊かにしたというのは、ただの幻想

2019年7月24日(水)17時15分
ニーマ・サナンダジ(ヨーロッパ起業・政策改革センター代表)

人口500万人のノルウェーと3億人のアメリカでは前提も違い過ぎる(ノルウェーの首都オスロ) DAMIEN VERRIER/ISTOCKPHOTO

<世界のリベラル派が理想とするノルウェーがリッチな福祉国家になれた泥くさい理由は別にある>

トランプ米大統領の正式な出馬宣言で、来年の大統領選に向けた戦いが本格化している。20人以上の候補者が乱立する民主党では、支持率トップを争うバーニー・サンダース上院議員が、北欧型の社会民主主義を目指すと主張している。

無理もない。ノルウェー緑の党のアーレン・クビトルドは6月、フォーリン・ポリシー誌ウェブ版への寄稿で、社会民主主義的な経済政策が北欧諸国を豊かにしたと主張している。「世界銀行によると、ノルウェーとアメリカの1人当たりGDPはほぼ同じだ」

クビトルドによれば、それは政府が経済に大きく介入する政策が、実現可能であるだけでなく好ましいことの証拠だ。サンダースら世界中の左派は、社会民主主義がただの理想論ではなく、豊かで平等な国をつくる現実的な手法であることを北欧諸国が示していると言う。

こうした「北欧モデル」のファンには申し訳ないが、ノルウェー経済の成功をもたらしたのは豊かな天然資源であって、社会民主主義的な政策ではない。

人口500万人余りのノルウェーは森林、鉱物、漁業、石油、天然ガスなど豊かな資源に恵まれてきた。なかでも大きな富をもたらしているのは石油だ。

むしろ政府介入を減らす

ノルウェーの石油基金は世界最大級の政府系投資ファンドであり、国民1人当たり約20万ドルの運用残高を誇る。むしろ国民1人当たりの石油輸出量でノルウェーを大きく下回るアメリカが、ノルウェーと同等の生活水準を実現していることのほうがあっぱれと言っていいだろう。

同じ北欧でもノルウェーほど資源に恵まれていない国は、アメリカよりも生活水準が低い。18年のアメリカの1人当たり名目GDP(購買力平価換算)は6万2480ドルで、ノルウェーの6万5603ドルと同水準だったが、デンマークは5万5019ドル、スウェーデンは5万2767ドル、フィンランドは4万8248ドルだった。

クビトルドは、ノルウェーでは国が主要産業を支えていると言う。実際、国有企業の雇用は約23万1000人に上るが、これも巨大な石油産業の大部分が国に支配されているからであって、北欧全体を見れば実のところ国有部門の雇用は限定的だ。

人口がノルウェーの2倍のスウェーデンでは、国有部門の雇用はノルウェーの半分(12万4000人)だし、ノルウェーと人口が同程度のフィンランドでは7万2000人にすぎない。ノルウェーよりもやや人口の多いデンマークでは、国有企業で働く人は1万9000人だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ

ワールド

再送-日鉄副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中