中国から「つらい...!」京アニ
こういった中共中央や中央政府のメディアが、京アニが受けた災禍をこのような形で大きく報道するなどということは、普通ではあり得ないことだ。
なぜなのか?
それならなぜ、今回は中共中央および政府が、こんなにまで大きく報道するのだろうか。
理由の一つとして考えられるのは、1980年以降に生まれた「80后(バー・リン・ホウ)」たちは、日本の動漫を見ないで育った人はほぼ一人もいないと言っていいほど、誰もが日本の動漫の洗礼を受けて大人になっていったことだ。その世代も今や40歳になろうとしている。物心ついたときの年齢から考えると、40代前半はみな、日本の動漫に夢中になって育った世代である。
その人たちが今や中堅クラスとして、社会のどの領域にも入り込んでいるわけだ。 当然、メディアにもこの80后がいる。
1990年以降に生まれた90后(ジュウ・リン・ホウ)でさえ、大人の仲間入りをして堂々と中堅層に入り込んでいる。
これらの人たちは冒頭の若者からの叫びのように「つらい...!」と嘆き、ショックを受けている。
しかし、上層部からの許可がなかったら、党の機関紙が勝手に報道することなど、許されない。何かがなければ、このような現象は起きない。
おまけに、CCTVの追悼特集などを見ると、かなり京アニに対する知識があって、愛を込めて制作していることがわかる。
そこで、いくつかの背景を考えてみた。
1.京アニ作品のファン層は報道を作る側にも浸透している。彼らが企画案を提出することはあり得る。「上から指示が下りてきたから報道した」のではなく、おそらく自主的に企画を建て、上に申請し、許可が降りたので報道が可能となったと考えるべきだろう。
2.ではなぜ許可を下したかということが肝心だが、冒頭の青年を取材したところ、「京アニの作品は基本的に楽観的、向上的な、努力を推奨する、いわゆる中国共産党がよく言う"正能量"(プラスのエネルギー)的な作品であります。退廃的ものが一切ない、比較的推奨しやすい作品群です。単に若者層だけではなく、報道関係者に彼らの作品に対して好意を持つ人は多いと思われます。だから今回は許可が下りやすかったのではないかと推測されます」という回答が戻ってきた。
3.さらに近年は若者の、党・政府系メディア離れが加速している。だから中共中央は何とか若者層に食い込もうと、スマホに漫画やアニメを用いた党の宣伝を行っているほどだ。従って今回のような事件を大々的に報道するのは、若者に対するイメージを改善するだろう。つまり、若者へのアピールという、「人民への迎合」的要素が入っていると言っていいのではないだろうか。