最新記事

中国

中国から「つらい...!」京アニ

2019年7月21日(日)13時50分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

4.それを裏付けるデータとして2018年時点での中国の人口構成がある。日本アニメに夢中になった世代は幅広く、20代から40代後半までをその範疇に入れることができる。1978年12月に改革開放が始まり、1980年から鉄腕アトムなどが上陸し始め、以降、日本の動漫のすべては中国で海賊版などを通して隅々まで浸透している。CCTVの代表的なキャスターである白岩松氏は1968年生まれで既に51歳になっているが、彼は鉄腕アトムに関して涙を浮かべて、80年代初期に中国人に与えたフレッシュな衝撃を語っている。現在10代である若者たちは、リアルタイムで京アニを愛してきた群像だ。これらを考慮すると、日本アニメに強い愛情を抱いている人口は、50%以上を超えることになる。仮に20歳から49歳までとした場合でも46.4%に達する。6.5億から7億に及ぶ人民が愛着を覚える日本アニメ、特に政治に無関心な10代や20代が夢中になっていた京アニ作品を考えると、中共中央&中国政府としては、ここで若者を党・政府系メディアに引き付けておこうという判断がなされたものと考えられる。

5.それ以外に考えられるのは「テロ犯行の手口」への警戒感だろうか。簡単に購入できるガソリンがこのような形での殺傷力を持ち得ることは、中国の治安やテロ防止の面においても大きな問題として注目されている。実は中国では近年「掃黒除悪」(反社会的な邪悪勢力を徹底して取り除く)という犯罪撲滅運動を行っており、そのためにたとえば、「車のガソリンタンクに直接注ぐ以外の方法でガソリンスタンドからガソリンを購入することを禁止する」という規則までが遂行されており、中国ではこのような形での犯罪を未然に防ぐ規則ができあがっている。それが如何に正しい措置であったかを広く知らしめるためにも報道する価値があると、当局は判断した側面も否定できない。

いずれにしても、80后などの日本アニメを愛した世代が、やがては中国の政権の重要なポストを占めるようになる時代が必ずやってくる。そのときに、中国共産党の一党支配体制が維持できるのか、また中国の対日感情がどのように変化していくのかなどに注目していきたいと思う。

なお、冒頭に書いた拙著『中国動漫新人類』だが、そのサブタイトルには「日本のアニメと漫画が中国を動かす」というフレーズを付けた。この現象は今も変わらないし、今後はもっとその通りになっていくのかもしれない。

日本のアニメよ、頑張れ!

あなたたちは、時代を動かしている!

(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去

ビジネス

「空飛ぶタクシー」の米ジョビ―、生産能力倍増へ 

ビジネス

ドイツ経済、26年は国内主導の回復に転換へ=IMK

ワールド

豪首相、ヘイトスピーチ対策強化を約束 ボンダイビー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中