中国から「つらい...!」京アニ
4.それを裏付けるデータとして2018年時点での中国の人口構成がある。日本アニメに夢中になった世代は幅広く、20代から40代後半までをその範疇に入れることができる。1978年12月に改革開放が始まり、1980年から鉄腕アトムなどが上陸し始め、以降、日本の動漫のすべては中国で海賊版などを通して隅々まで浸透している。CCTVの代表的なキャスターである白岩松氏は1968年生まれで既に51歳になっているが、彼は鉄腕アトムに関して涙を浮かべて、80年代初期に中国人に与えたフレッシュな衝撃を語っている。現在10代である若者たちは、リアルタイムで京アニを愛してきた群像だ。これらを考慮すると、日本アニメに強い愛情を抱いている人口は、50%以上を超えることになる。仮に20歳から49歳までとした場合でも46.4%に達する。6.5億から7億に及ぶ人民が愛着を覚える日本アニメ、特に政治に無関心な10代や20代が夢中になっていた京アニ作品を考えると、中共中央&中国政府としては、ここで若者を党・政府系メディアに引き付けておこうという判断がなされたものと考えられる。
5.それ以外に考えられるのは「テロ犯行の手口」への警戒感だろうか。簡単に購入できるガソリンがこのような形での殺傷力を持ち得ることは、中国の治安やテロ防止の面においても大きな問題として注目されている。実は中国では近年「掃黒除悪」(反社会的な邪悪勢力を徹底して取り除く)という犯罪撲滅運動を行っており、そのためにたとえば、「車のガソリンタンクに直接注ぐ以外の方法でガソリンスタンドからガソリンを購入することを禁止する」という規則までが遂行されており、中国ではこのような形での犯罪を未然に防ぐ規則ができあがっている。それが如何に正しい措置であったかを広く知らしめるためにも報道する価値があると、当局は判断した側面も否定できない。
いずれにしても、80后などの日本アニメを愛した世代が、やがては中国の政権の重要なポストを占めるようになる時代が必ずやってくる。そのときに、中国共産党の一党支配体制が維持できるのか、また中国の対日感情がどのように変化していくのかなどに注目していきたいと思う。
なお、冒頭に書いた拙著『中国動漫新人類』だが、そのサブタイトルには「日本のアニメと漫画が中国を動かす」というフレーズを付けた。この現象は今も変わらないし、今後はもっとその通りになっていくのかもしれない。
日本のアニメよ、頑張れ!
あなたたちは、時代を動かしている!
(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。