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「やりがい」中吊り広告を炎上させた月収30万円の微妙なライン

2019年7月3日(水)16時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

広告を作る過程で「おかしい」と異論が出なかったのか、と疑問に思う人も多かったはずだ。広告会社に作成を委託したのだろうが、彼らの収入感覚が世間一般とズレているのかもしれない。<図2>は、大企業の大卒男性労働者に絞って同じグラフにしたものだ。

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労働者全体の図と模様が大きく異なる。この集団だと、月収は50万円がスタンダードで30万円は低いと言えなくもない。広告を作ったのが、こういう人たちであれば疑問は感じないだろう。

全労働者の数パーセントしかいない(勝ち組)集団によって作られた広告は世間の反感を買い、車中から撤去される運びとなった。混雑した通勤電車の中、こういう広告が目に入ったらストレスも倍増するというものだ。

阪急電鉄は反省の意を示し、今後はチェックを強化すると述べている。結構なことだが、社内ではなく外部のチェックを経るべきだろう。

少し話を広げると、ネットメディアの隆盛によりフェイクニュースが増える中、ファクトチェックや質の担保をどうするか、という問題が出てきている。手間がかかるのはもちろん、ある程度の専門知も必要で、誰にでもできる仕事ではない。

定職のない高度人材の能力を活用するのも一つの手だ。行き場のないオーバードクターが増えているが、「街でコンビニ店員やガードマンとして働いている人文系の大学院出身者に2万円を支払い、1時間ほどでザッとチェックしてもらって意見出しをしてもらうだけで」、メディアの質は大幅に改善される(安田峰俊「役に立たない学問を学んでしまった人文系ワープア博士を救うには」『文春オンライン』2019年4月15日)という指摘もある。

阪急の広告騒動を機に、浪費されている知的人材の活用の在り方も考えてみてはどうだろうか。

<資料:厚労省『賃金構造基本統計』(2018年)

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