アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体罰を禁じるべき根拠

2019年6月21日(金)17時15分
荻上チキ(評論家)、高 史明(社会心理学者)

他のしつけの補助として行う体罰ならOK?

Lazelere & Kuhnは、先行研究で用いられてきた「体罰」の概念が、軽度の身体的罰だけでなく虐待にあたるような強度の、あるいは頻繁な身体的暴力をも含んでいることを問題視した。虐待であれば当然子の発達に望ましくない影響を及ぼすであろうが、だからといって適切な強度・頻度でなされる体罰の効果まで否定されるものではないのではないかと。

また、体罰の効果そのものを検討するよりも、他のしつけ方略の効果との差を検討することが必要であるとも考えた。そうすることによって、子どもにもともと問題があったために体罰を受けた後にも問題行動をとるだけといった説明を排除できるし、体罰を含めどのしつけ方略を選択するべきかという現実的な問いの答えも得られるからである。

そこで、Lazelereらは、体罰の使用の仕方を「条件付き体罰」、「慣習的体罰」、「激しい体罰」、「主たる方略としての体罰」の4つに分類し、その観点から26の先行研究を分析した。

「条件付き体罰」は、「2~6歳児が他のしつけ方略に従わないときに体罰を行う」のように、他のしつけ方略をサポートするために、抑制されたやり方で行われる体罰である。「慣習的体罰」は頻度や使用条件などの面で一般的な使用の仕方「激しい体罰」は方法や強度が通常の範囲を逸脱したもの、「主たる方略としての体罰」は他の方略よりも体罰を頻繁に用いるものである。

この4種類の体罰のそれぞれについて、「従順さ」「反社会的行動」「良心」「ポジティブな行動と情動」の4種類のアウトカムについて検討した結果、他のしつけ方略に比べて子どもの発達に有害であるのは、「激しい体罰」「主たる方略としての体罰」のみであった。つまり、体罰が不適切な仕方・強度でなされるような場合や、他の方略よりも優先して用いられるような場合には、体罰は好ましくない結果をもたらしていたのである。

一方で、「慣習的体罰」は、他のしつけ方略に比して有益とも有害ともいえなかった。さらに「条件付き体罰」は、他のしつけ方略の多くよりも良いパフォーマンスを示していたのである。

ただし、である。この結果の解釈には、注意を要する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米消費者信用リスク、Z世代中心に悪化 学生ローンが

ビジネス

米財務長官「ブラード氏と良い話し合い」、次期FRB

ワールド

米・カタール、防衛協力強化協定とりまとめ近い ルビ

ビジネス

TikTok巡り19日の首脳会談で最終合意=米財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中