アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体罰を禁じるべき根拠
子どもの発達だけでなく親子関係にも悪影響
ここでは、体罰と虐待との、一応の区別がなされた上で議論がされている。これは、一切の体罰を違法とする国もある一方で、アメリカの法制度においては教育目的で「適切」な方法や強度でなされる体罰とそれに該当しない加害行為である虐待とが区別され、前者は適法とされていることを受けてのものである。
その上で、子どもをしつけ、より良い人生を送れるように成長させたいという親の動機には理解を示しつつ、その目的に照らしても、体罰という手段は不適切であると論じているのだ。
APAが参照した先行研究の全てをここで紹介するのは不可能であるため、幾つか重要なものに絞って紹介していこう。
まず、これまでになされた多くの研究で、体罰は好ましくないアウトカム(結果・帰結)と関連していることが示されてきた。このように多くの研究が存在しているとき、それらを統合して分析し、より確信度の高い知見を得る方法が、メタ分析である。
Gershoff & Grogan-Kaylor (2016)のメタ分析は、75の研究を用いたもので、16万人以上の子どものデータに基づいている。そして、体罰を受けた者の子ども時代と、成人後の発達、行動、および精神的健康との関連を検討した。
その結果、検討された17種類のアウトカムのうち13種類においては、体罰の使用が好ましくないアウトカムと関連していることが示された。これらの中には、子ども時代における道徳の内面化、攻撃性、反社会的行動、精神的不健康、認知的能力の低さなどに加えて、成人後の反社会的行動や精神的不健康などが含まれる。
さらに、子ども時代の親子関係の質も、体罰を用いる場合にはよりネガティブであった。体罰を用いることは、子の親に対する愛着や信頼を損ないかねないのである。
体罰との関連性が見られなかったのは、しつけ直後の反抗や子ども時代および成人後の飲酒・薬物濫用など、わずか4種類のアウトカムのみであった。体罰とポジティブなアウトカムの関連が示されたものは、1種類もなかった。したがって、体罰の使用は有効でないどころか、むしろ子どもの発達に悪影響を及ぼすと考えられることになる。
ただし、体罰の有効性を主張するメタ分析もある。Gershoffらから遡ること10年前に発表されたLazelere & Kuhn (2005)がそれである。Lazelereらへの反論はGershoffらも行っているのだが、Lazelereらは有効性を検証するための強力な方法を用いており、Gershoffらの反論は十分なものではないと思われるため、こちらも取り上げておきたい。