アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体罰を禁じるべき根拠

2019年6月21日(金)17時15分
荻上チキ(評論家)、高 史明(社会心理学者)

子どもの発達だけでなく親子関係にも悪影響

ここでは、体罰と虐待との、一応の区別がなされた上で議論がされている。これは、一切の体罰を違法とする国もある一方で、アメリカの法制度においては教育目的で「適切」な方法や強度でなされる体罰とそれに該当しない加害行為である虐待とが区別され、前者は適法とされていることを受けてのものである。

その上で、子どもをしつけ、より良い人生を送れるように成長させたいという親の動機には理解を示しつつ、その目的に照らしても、体罰という手段は不適切であると論じているのだ。

APAが参照した先行研究の全てをここで紹介するのは不可能であるため、幾つか重要なものに絞って紹介していこう。

まず、これまでになされた多くの研究で、体罰は好ましくないアウトカム(結果・帰結)と関連していることが示されてきた。このように多くの研究が存在しているとき、それらを統合して分析し、より確信度の高い知見を得る方法が、メタ分析である。

Gershoff & Grogan-Kaylor (2016)のメタ分析は、75の研究を用いたもので、16万人以上の子どものデータに基づいている。そして、体罰を受けた者の子ども時代と、成人後の発達、行動、および精神的健康との関連を検討した。

その結果、検討された17種類のアウトカムのうち13種類においては、体罰の使用が好ましくないアウトカムと関連していることが示された。これらの中には、子ども時代における道徳の内面化、攻撃性、反社会的行動、精神的不健康、認知的能力の低さなどに加えて、成人後の反社会的行動や精神的不健康などが含まれる。

さらに、子ども時代の親子関係の質も、体罰を用いる場合にはよりネガティブであった。体罰を用いることは、子の親に対する愛着や信頼を損ないかねないのである。

体罰との関連性が見られなかったのは、しつけ直後の反抗や子ども時代および成人後の飲酒・薬物濫用など、わずか4種類のアウトカムのみであった。体罰とポジティブなアウトカムの関連が示されたものは、1種類もなかった。したがって、体罰の使用は有効でないどころか、むしろ子どもの発達に悪影響を及ぼすと考えられることになる。

ただし、体罰の有効性を主張するメタ分析もある。Gershoffらから遡ること10年前に発表されたLazelere & Kuhn (2005)がそれである。Lazelereらへの反論はGershoffらも行っているのだが、Lazelereらは有効性を検証するための強力な方法を用いており、Gershoffらの反論は十分なものではないと思われるため、こちらも取り上げておきたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドバイの米オラクル施設に迎撃破片が落下、負傷者なし

ワールド

トランプ政権による大学への人種データ開示命令を仮差

ビジネス

アングル:トランプ関税で変わる米国のメニュー、国産

ワールド

米戦闘機2機、イランが撃墜 乗員2人救助・1人不明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中