最新記事

ネット

トランプのウィキペディアページは常に戦争中

Donald Trump’s Wikipedia Entry Is a War Zone

2019年6月21日(金)16時20分
アーロン・マク

原則としてユーザーなら誰でも記述の変更を求められるが、その実行には上級編集者の承認が必要になる WIKIPEDIA, PHOTO ILLUSTRATION BY YASUSHI MITSUIーNEWSWEEK JAPAN

<公平と中立を目指すウィキペディアだからこそトランプの記事にはいつも激しい議論が付きまとう>

あれは昨年7月、フィンランドの首都ヘルシンキで開かれた米ロ首脳会談後の記者会見でのことだった。全世界が注目するなか、ドナルド・トランプ米大統領がロシアによる16年米大統領選への介入を全否定してみせた。介入を裏付ける証拠はアメリカの諜報機関に山と積まれていたのだが。

当然、アメリカの政界は大騒ぎになった。熱烈なトランプ支持者であるニュート・ギングリッチ元下院議長でさえ「大統領の最も重大な過ちであり、すぐに訂正すべきだ」とツイートした。ジョン・ブレナン元CIA長官は「反逆罪に値する」発言だと非難した。

一方、ウィキペディア英語版では編集者たちが、この首脳会談をトランプのページに記載するかどうかをめぐって激論を交わしていた。ウィキはユーザーが記事をリアルタイムで更新する自主管理体制を採り、信頼できる情報を公平かつ中立な姿勢で伝えることを旨としている。

トランプに関して中立を貫くのは容易なことではない。ヘルシンキ会談をめぐる議論は、トランプの項目のトークページ(日本語版ではノートページ)上で行われた。トランプの会見から数時間後、日頃から熱心なユーザーのMrX はこう書いた。「トランプが反逆とか不名誉とか報じられるような衝撃的なことをやらかした以上、記事を更新する必要がある」

この書き込みの3分後には、power~enwiki がこう応じた。「メディアがやるようなばかげたコメントを宣伝するゲームはやめよう。新しい事実はほとんど何もない」

そして議論が始まった。一部の編集者たちは、トランプが自国の諜報機関よりもロシアの大統領を信用する発言をしたことには「百科事典に載せる長期的な価値」があると主張した。

一方、ほとぼりが冷めたら注釈程度の価値もない事件だとする意見もあった。「これは百科事典だ。新聞と読者の奪い合いをしているわけじゃない。急いで記事に入れる必要はない」と Mandruss は書いた。

こうなると議論は白熱するばかり。あなたは感情的になり過ぎている、いやそちらこそ政治的偏見で目が曇っている......。

最終判断は管理者が下す

するとそこへ、論争を収めるためにウィキの統治機構が介入してきた。対等な議論で結論が出ないなら、上からの命令で決めるしかないからだ。

原則としてユーザーなら誰でも記述の変更を求められるが、その実行には上級編集者(30日以上の活動歴、500回以上の編集歴を持つ人)の承認が必要になる。さらにその上には管理者(しかるべき編集歴があり、ユーザーの投票で決まるボランティアで、特別な命令権を有する)と、仲裁人(毎年の選挙で選ばれた13人の編集者から成るグループで、管理者の介入に関わる不正や異議の申し出に最終判断を下す役目)がいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米大統領選で浮上のチップ非課税案、激戦州

ビジネス

アングル:テスラ運転支援技術、規制すり抜けライドシ

ビジネス

米国株式市場=ダウ最高値、雇用統計受け景気懸念が緩

ワールド

ハリス氏、アラブ系米国人指導者と会談へ 支持回復目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシング、信じられない映像を米軍が公開
  • 3
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待っていたのは......
  • 4
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 5
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 6
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 7
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 8
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシ…
  • 9
    オアシス再結成で露わになる搾取...「ダイナミック・…
  • 10
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中