最新記事

アメリカ政治

ロシア疑惑報道はフェイクにあらず

Journalists Got Mueller Report Right

2019年4月5日(金)18時00分
セス・エーブラムソン(ニューハンプシャー大学助教)

司法妨害については、アメリカの報道界全体で見解が一致する点があった。それは、公になった証拠だけから考えても、トランプによる司法妨害の疑いは検討する価値があったということだ。

一部のジャーナリストが公の証拠だけでは「合理的な疑いの余地がない」という水準に達しないだろうと考えた一方で、その水準を超えるものだという見方もあった。全てのジャーナリストが「何かある」という点で一致していた。ムラーもこれに賛同したと思える。

つまり全員が正しかったのだ。

メディアは、結論を出さないという尋常ではない措置をムラーが取るとは予測できなかったとしても、疑惑をめぐって賛否が拮抗することは見通していた。報告書には表れているであろう「証拠の扱いにくさ」を予測していたことになる。

メディアで進行中の非難合戦(共和党支持の識者対報道機関、報道機関対フリーランス・市民ジャーナリスト)は、主に過去2年間にメディアが論じてきた「共謀」の性質に関する誤解から生じている。

トランプ自身は、ムラーが訴追不可能と見なした狭い意味での共謀にしか言及しないようにしてきた。メディアが疑ったのは、アメリカの外交政策を変えるようにひそかに外国から金で説得されたという可能性だ。これは主に、ロシアやサウジアラビア、アラブ首長国連邦に有利な政策変更を意味する。

闘いは刑事司法の場へ

そういう結託行為は共謀ではなく、贈収賄や外国側による犯罪への加担や幇助という罪になる。それを議会で検討すべきというのが、ムラーの本音だろう。

何しろトランプ自身が、腐敗行為を示唆するような発言をしていた。大統領選を戦うために破産するのは避けたいと考えたと、彼は語っている。そんなことを公職について言っているようでは、いずれ違法行為を働くのではという懸念が持たれる。

今回の捜査報告書にも、その種の共謀の証拠が含まれているはずだ。ムラーはさまざまな共謀疑惑の追及を他者に任せることにしたようだ。共謀について、あるいは彼の言う「協調」については連邦司法機関に委ねる。

現在、ニューヨーク州南部・東部地区とバージニア州東部地区の連邦地裁、首都ワシントンの連邦検事局でトランプと周辺人物が外国勢力と結託したという疑惑が取り上げられている。

さらにトランプが外国の勢力に屈したのではないかという問題も依然として問われており、FBIとCIAが捜査している可能性がある。ムラーは捜査の焦点を狭めたようだが、議会では複数の委員会がもっと広い視野から追及するに違いない。

これからも、事は今までどおり運ぶはずだ。トランプは相変わらず作り話を続ける。メディアはこれまでと同じく、おおむね正確に公共の見張り役を果たす。アメリカが不安定な状態にあるとしても、それはメディアによるロシア疑惑に関する報道のせいではない。

(筆者にはロシア疑惑を追った『共謀の証拠』の著書がある)

20190409cover_200b.jpg

※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。


20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ戦争「世界的な紛争」に、ロシア反撃の用意

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中