大迷走イギリスが「残留」に方向転換できない訳
In or Out?
とはいえ、国民投票のやり直しを望む世論が高まっていることは事実だ。世論調査機関ユーガブが最近行った調査によると、2度目の国民投票を支持する人は48%。反対の人は36%だった。
イギリスの二大政党の保守党と労働党はいずれも、自国がEUのメンバーであり続けるべきだと一貫して主張してきた。メイ自身も、16年の国民投票では残留支持を呼び掛けていた。その点では、下院議員の3分の2以上も同じだ。
では、ブレグジットがもはや民意とは言えなくなっているのに、どうしてメイはかたくなな態度を崩さないのか。「離脱を実現できなければ、保守党が完全に崩壊するからだ」と、ある英政府高官は言う(メディア対応する正式な権限がないことを理由に匿名を希望)。
この高官によれば、保守党内の離脱強硬派は「メイの離脱合意案が理想的なブレグジットには遠いと感じ、怒りをたぎらせている。この協定案では、EUのルールには従わずに加盟国並みの恩恵にだけ浴するという夢物語が実現しないからだ」。
「その一方で、ブレグジットが実現しなければ、裏切りだと騒ぎ立てるだろう。このグループが(離脱推進の)新党を結成すれば、保守党が政権を握ることは向こう数十年なくなる」
多くの保守党議員はブレグジットに消極的だが、保守党の未来はブレグジットの実現に懸かっているのだ。しかし、国民投票で離脱推進派が約束したような好条件は、EU側が到底受け入れないことが明らかになってきた。つまり、国民投票での離脱推進派の約束を守ることは不可能になりつつある。
メイは29日の議会採決を前に、離脱協定案が可決されれば首相を辞めると示唆した。それでも、メイが党内の支持を取り付けることはできなかった。
「メイの辞任は避けられないと、誰もが思っている。辞任の意思を示しても全く重みがない」と、ある保守党議員は言う(政権内での立場を考えて匿名を希望)。「問題は、リーダーが交代しても何も変わりそうにないことだ......国家的な危機の最中に党内の権力抗争にうつつを抜かしていたと思われれば、私たちは次の選挙で有権者からお仕置きを受けるだろう」
「合意なき離脱」回避へ?
こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。EUはメイに、4月12日まで実質的な猶予期間を与えている。それまでに協定案を議会で可決させられなければ、メイはさらに長期間の離脱期限延長をEUに申し入れるほかない。
しかし、議会の総選挙や2度目の国民投票の実施など、イギリスがそれなりの理由を示さなければ、長期間の期限延長には同意できないと、EU側は常々述べてきた。
「EUがイギリスの政治プロセスを指図するような状況になる」と、前出の保守党議員は不満を述べる。「EUからコントロールを取り戻すという目的を達成できているとは思えない」