最新記事

資本主義

「給与所得者の保護政策はどの国でも後退している」ジグレール教授の経済講義

2019年3月7日(木)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

秘密にされているはずの名前のリストが、それでも公表されてしまうのはなぜなの? 教えて。

――いいだろう。では「パラダイス文書」を例にしよう。バミューダ諸島にある弁護士事務所アップルビー・インターナショナルで仕事をしていたひとりの人物が、おそらく良心の呵責(かしゃく)を感じたのだろうね。

2017年11月、10か所のタックス・ヘイヴンにあるオフショア会社の資金計画を暴露する、650万件の内部文書を国際調査報道ジャーナリスト連合に送り届けた。

ジャーナリストたちはこれらの資料を徹底的に分析し、数字を引きだした。そのジャーナリスト連合に属しているフランスの新聞『ル・モンド』の算定によると、毎年、3500億ユーロの税金が各国の税制を免れ、うちフランスだけで200億ユーロになっているそうだ。

まあ、腹が立つ! その他大勢の一般人は、1銭も無駄にしないように使っている人が多いのに、それなのに税金を払わされているし......国は税収が足りないので公共サービスをカットしているし......。

――公共サービスと結びつける解釈は素晴らしいよ、ゾーラ。大当たりだ! 大金持ちの連中が自分たちを守るために引き合いに出す新自由主義の理論を否定している。

たとえば、その理論に多大な影響を与えた経済学者のひとり、アダム・スミス(1723―1790年)は――彼についてはあとでまた話そう――、実際にこう主張している。

「富は、健康と同じように、自分で築くもので、他人を貧乏にして得るものではない」とね。

この考え方でいくと、たとえば、健康は自分でよくするもので、それによって他人が病気になることはない、ということになる......。これはとんでもない間違いだ! 富と健康を比べても理論が成り立たない! ゾーラはそれを完全に理解したね。

富裕層が自分たちの財産を隠して税金を払わないから、国庫が空になっている。20世紀の後半、ヨーロッパの福祉国家は、暴走する資本主義から市民を守るため、いまとは違うふうに進展していた......。

ちょっと待って。その福祉国家ってなあに?

――福祉国家というのはね、19世紀の終わりに資本主義が台頭したのにともなって、いくつかの国であらわれたもので、国が介入して労働者層を多少なりとも保護することだ。

最初は医療保険など、試行錯誤だったようだね。それでも第二次世界大戦後、この保護政策は社会正義に応える形で(老齢年金、失業保険、家族手当、生活保護、奨学金......など)発展していった。もちろん、社会運動や労働組合、共産主義......などの闘争が拡大するのを恐れてのことだったのだがね。

福祉国家が実施したのは、社会保障や莫大な富の再配分で、たとえば税金は段階的な計算表をもとに、貧困層は少額、富裕層は多く払うというやり方だった。また、学校や保育園、病院や公共交通機関を資金援助し、農業やスポーツ活動に補助金を与える......などもそうだったね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証Gの10-12月期、純利益は63.9%増の4

ワールド

原油先物上昇、トランプ関税を注視 週間では下落へ

ビジネス

蘭ASML、四半期決算での新規受注公表中止 株価乱

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中