日本の「テラハ」が描くリアリティー番組の未来
Reality TV Still Evolving
日本のテレビ番組ではLGBTは、ストレートの(と想定される)視聴者を楽しませる「ちょっと変わった芸能人」として登場するか、感動物語の主人公に仕立て上げられるかのどちらかであることが多く、彼らの「普通の姿」が描かれることはほとんどない。
例えば、現在日本で最も有名なLGBTとされるマツコ・デラックスは、同性愛者の女装タレントだ。一昔前に人気を博したお笑い芸人レイザーラモンHGは、ピチピチの黒い衣装で奇声を上げる「ハードゲイ」を演じたことが話題を呼んだ。
小学生のときワシントン州の日本人学校に通ったという日系アメリカ人のブランドンは、マツコを除けば日本のテレビに「LGBTがまともに登場することはない」とし、「日本のテレビはもっと多様性を受け入れられるはずだ」と語る。
番組を「卒業」する理由
それだけに、フツーの若者たちの日常を淡々と描く『テラスハウス』が、LGBTをメンバーに加えたことには重大な意味がある。池添は女装しているわけでも、「ハードゲイ」のような奇声を発することもない。もやもやした自分のアイデンティティーと夢(ヘアメークのプロになること)に、なんとか方向性を見いだそうともがく21歳のフツーの若者だ。
そんな「フツーのLGBTの姿」を日本の視聴者に見せる上で、リアリティー番組は最高のフォーマットと言える。
アメリカのリアリティー番組も、軽薄な婚活サバイバル番組や、ワインをがぶ飲みする主婦番組、あるいはセレブファミリーのド派手な日常を描く番組が主流になる前は、リアルなキャスティングが社会に大きなインパクトを与えていた。
とりわけMTVの『リアル・ワールド』シーズン3(94年)が、HIV感染者のペドロ・サモラを登場させたことは、当時の視聴者に大きな衝撃を与えた。ハンサムな青年だったサモラは、エイズを発症し、どんどん痩せこけながらもエイズの啓蒙活動に情熱を傾け、撮影終了直後に息を引き取る。それはエイズという病気に「人間の顔」を与える重要なきっかけとなった。
『テラスハウス』の池添にそんな悲壮感はない。しかし彼がキャスティングされたこと自体が、ともすれば閉鎖的な日本の視聴者に、性的マイノリティーを仲間に持つことの「フツーさ」を示し、深い共感を生む効果をもたらしている。