米中冷戦、悪いのはアメリカだ
A Cold War Is Coming, and It Isn’t China’s Fault
これらに対し中国政府は報復関税で応じるとともに、脅しに屈して譲歩することはないと警告した。だが特筆すべきことに、もっと重大で戦略的な問題(たとえば南シナ海の領有権問題)については発言を控えた。アメリカの要求に応じるつもりはさらさらないにも関わらず、習近平(シー・チンピン)国家主席の厳しい統制の下、火に油を注がないよう中国政府が気を配ったのだ。
ここでアメリカが中国を完全に利害が相容れない敵として扱い、中国の長期的な野望は必ずアメリカの犠牲を伴うかのように言うのは大きな間違いだ。そんな言い方をすれば、中国の台頭とアメリカの凋落は表裏一体で、生き残れるのはどちらか一方であるかのような印象を与える。アメリカとの敵対関係を望んでいる様子などほとんど見せていない中国を、敵対の方向へと追い込んでしまいかねない。
中国が近年、覇権拡大に動いているのは事実だ。天然資源と新市場へのアクセス確保のために、アフリカやアジア、中南米に巨大投資を行っているのがいい例だ。中国軍も、南シナ海やその先の海域にまで進出して力を誇示している。
中国の台頭は世界にプラスだった
テクノロジー面では、中国の半ば閉ざされた経済システムは、アメリカをはじめとする外国の多くの企業の進出を阻んできた。特に通信やインターネットの分野ではそれが顕著だが、それはアメリカが自国の機密に関わる産業を守っているのと変わらない。
これまで長年、米企業は中国で事業を行う対価として、世界貿易機関(WTO)の精神やルールに違反するようなやり方で技術移転を求められてきた。東アジアに駐留する米軍や中国に進出した一部の米企業は明らかに中国政府に歓迎されていない。だがだからといって冷戦のような敵対姿勢をとることが優れた政策だということにはならない。
中国に対する長年の外交的な働きかけや投資にも関わらず、中国共産党はアメリカの思い通りにならなかった、だから中国への敵意は正当化されるという主張も最近よく聞かれるが、これは的外れだ。中国の経済的台頭は世界の安定に寄与してきた。ナイキからスターバックス、アップルに至るまで数多くの米大企業には新たな市場をもたらし、アメリカの消費者も中国からの安い輸入品という恩恵を手にした。