最新記事

「儲かるエコ」の新潮流 サーキュラー・エコノミー

サーキュラー・エコノミー 世界に広がる「儲かるエコ」とは何か

THE CIRCULAR ECONOMY GOES MAINSTREAM

2018年10月10日(水)18時50分
ウィリアム・アンダーヒル(ジャーナリスト)

サーキュラー・エコノミーの推進者たちは巨大企業とも敵対しない。循環型の経済は雇用を創出し、経済成長を助けると熱心に語る。そうすれば大企業も前向きになる。

現に、エレン・マッカーサー財団のパートナー企業にはグーグルやナイキ、ユニリーバ、ルノーなどが名を連ねている。アパレル業界対象の「メーク・ファッション・サーキュラー」キャンペーンにはバーバリーやGAP、H&Mも参加している。

政治家にとっても利点がある。環境問題に関心の強い有権者に喜ばれ、財政支出も削減できるからだ。2年前、アリゾナ州フェニックスの市長は、それまで埋め立て地に捨てるしかなかった街路樹のヤシの木の枯れた枝葉の循環的な使用法を思い付いた。細かく砕いて他の材料と混ぜ、動物の餌にするのだ。これを実用化した企業は、今や年商1000万ドルに成長している。

大企業の支配を心配する声も

EUも積極的だ。サーキュラー・エコノミーに転換すれば合計17万人の雇用を創出できるし、天然資源の調達量が20%ほど減るので域内GDPが3%上昇すると試算する。中国、イギリス、フランス、カナダなどの政府も循環型への転換を表明している。

先頭を走るのはフィンランドだ。世界初の完全なサーキュラー・エコノミーを実現するという目標を掲げている。理想ではない、現実的かつ実利的な目標だ。

「わが国には(林業をはじめ)天然資源に依存する産業が多い。循環型経済に転換すれば、資源の価値を最大限に引き出せる」と、フィンランド・イノベーション基金(Sitra)のマリ・パンツァーは言う。Sitraは横浜で開催される循環経済フォーラムの共催者に名を連ねている。

ただし、産業界の積極的な姿勢に不安を感じる人もいる。原料の効率的な利用で生産コストが下がれば企業は増産に走り、環境面のメリットが相殺されてしまうと指摘するのは、環境保護系のシンクタンク「スマートCSOsラボ」のミーチャ・ナーベルハウスだ。

モノではなくサービスを売るというシェア経済の動向にも問題がある。ベビー用品や日曜大工道具をシェアするのはいいが、「大企業の支配するシェア経済では企業側の力が強くなり、格差が拡大するだけだ」と、彼は言う。ウーバーで働く運転手の労働条件を考えれば、確かにそのとおりだ。

いずれにせよ、横浜の世界フォーラムにはIWC(国際捕鯨委員会)からIMFまで1000もの団体が結集する。「海の女」のマッカーサーに言わせれば、それはサーキュラー・エコノミーが「単なるアイデアではなく、現に走り出している」証拠だ。順風満帆、であることを祈ろう。

【参考記事】パンの44%が廃棄処分、だからビールを作りました
【参考記事】昆虫食は人間にも地球にも優しい(食糧危機対策になるだけでなく)

※サーキュラー・エコノミーの20のビジネス・アイデアも紹介した本誌10/16号(10/10発売)「『儲かるエコ』の新潮流 サーキュラー・エコノミー」特集は、こちらからお買い求めになれます。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

イスラエルのソマリランド国家承認、アフリカ・アラブ

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中