最新記事

BOOKS

テレビで反響を呼んだ取材、『発達障害と少年犯罪』

2018年9月21日(金)18時05分
印南敦史(作家、書評家)

また、親から虐待を受けることで二次障害を引き起こしてトラウマを抱えている子どもの場合、ほぼ例外なくその親はうつ状態にあり、幼い頃に虐待を受けているのだという。親から子、子から孫へと虐待やネグレクトが伝わっていく「世代間連鎖」である。

小さいときに虐待やネグレクトを受け、そのストレスを抱えたまま成長して大人になった場合、今度は我が子に虐待をしてしまうという悲しい現実だ。

周りがどれだけサポートできるか

では、発達障害をもつ子どもの当事者でなく、その家族でもない私たちにはなにができるのだろう? そのことについて著者は、「それは、後方支援である」と断言している。発達障害をもつ子どもには、周りからのサポートも含めたさまざまな角度からの支援が必要で、それこそ私たちにできることだという考え方である。

「後方支援」は、大きく以下の2つに集約されるそうだ。


1. 子どもの頃から目を配る
2. サポート体制を整備する(229ページより)

もちろん、これらを充分に機能させるためには、教育、医療、行政(社会)、その他あらゆる側面が一体となって取り組む必要があるだろう。そして1.の「子どもの頃から目を配る」には、2つのポイントがあるという。

まず1つ目は、早期発見だ。もし自分の子どもに発達障害のような傾向があると疑わしく感じた場合には、迷わず専門医の診断を仰ぐべきだということ。そして、それは周囲も気をつけてあげる必要がある。先にも触れたように、自閉症スペクトラムなどをもつ子どもの親は、同じように障害をもっていることが多く、自分の子どもの特性に気づきにくい場合があるからだ。

また、そのような診断を受けても周囲に隠してはいけない。なぜなら、隠すことで子どもに罪悪感を抱かせることになるし、なにかあった際に周囲に助けを求めづらくなるからだ。いわば、周りの人みんなで、子どもとその家族をサポートしてあげるという意識が大切なのである。

そして、子どもが発達障害をもっていることがわかったら、次に必要なのが、日々のケアと早期療育といったサポート。これについての鍵は、周りがサポートをどれだけできるかということ。


早期療育という点で一番大切だと感じるのは、「愛着感情の定着」である。愛着の気持ちは愛情に育つ基盤感情だ。子どものこの感情は大切にしてあげたいものだ。(232ページより)

もちろん、基本的なトレーニングも必要だ。身だしなみを整える、部屋の片づけや持ち物の管理をする、金銭管理をする、自分に合った進路選択をする、外出したときは予定の場所に時間通りに移動する、対人関係の基本を身につける、法的トラブルや危険を避けるというような、「社会で生きていくためのこと」ができないのなら、周りが教えてあげなければならないということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中