最新記事

BOOKS

テレビで反響を呼んだ取材、『発達障害と少年犯罪』

2018年9月21日(金)18時05分
印南敦史(作家、書評家)

ただし、このトレーニングの際には、できないことを責めたり否定するのではなく、達成感を自信につなげてあげなくてはならない。子どもの自信を育てるには、達成感を味わわせることが大切だからだ。

できなかったことができたときには、一緒に喜んであげる。そして、強引にやらせようとすることが子どもの緊張感を生んでしまうため、少しぐらいできないことがあっても、「失敗してもいいんだよ」というメッセージを発して安心させてあげるほうがずっと効果的だということである。


「いちばん困っているのは本人」。その気持ちを周りの私たちは忘れないようにしたい。
「発達障害は脳が進化したかたちだ」という人もいる。ストーカー問題に長年取り組んでいる、NPO法人「ヒューマニティ」の小早川明子さんだ。気遣いや人づき合いといった余計なことを考えなくてもよくなった脳の空き領域に、優れた才能が搭載されたのが発達障害という特性ではないか、というのである。素敵な考え方だと私は思う。彼らの素晴らしい部分を伸ばしてあける、そんな発想を持ちたいものだ。(233ページより)

本書で述べられていることは、自分にとって絵空事ではないと著者は記している。「妄想癖が激しく、ありもしないことを吹聴するところがあり、人見知りが激しく、しかし興味があることに関しては集中力を発揮した幼い頃の自分自身が、すべて本書の自閉症スペクトラム障害の症状に符合するから」だというのがその理由だ。

だから執筆するにあたっては、トラウマ治療で過去の記憶を掘り起こすのに似た恐れがあったという。しかし実際に始めてみると、「あー、わかるわかる」という気持ちが募ってもいったのだそうだ。

著者のこのエピソードは、「自閉症スペクトラム障害は、必ずしも否定的に捉えられなければならないものではない」というメッセージだとは言えないだろうか? そして、そう考えられたとき、私たちは彼らと向き合う準備ができたということになるのかもしれない。


『発達障害と少年犯罪』
 田淵俊彦、NNNドキュメント取材班 著
 新潮新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が「さらなる攻撃的行動」警告、米韓安保協議受

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 9
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中