最新記事

BOOKS

テレビで反響を呼んだ取材、『発達障害と少年犯罪』

2018年9月21日(金)18時05分
印南敦史(作家、書評家)

行動面で見られる変化は、異常な警戒心の芽生え、過食、排便や排尿に関する障害、異常なまでに素直になる、頑張りすぎる、多動、過度の乱暴、虚言、詐欺的行動、性的な逸脱行為。精神面では、さまざまな発達の遅れ、抑うつや無表情、緘黙(かんもく)、学業不振、パニック障害、チック、見捨てられ体験による被害念慮などだという。

すぐにわかるのは、症状の多くが発達障害に似た特徴を示していることだ。つまり子どもに虐待が行われると、生まれつきの発達障害と同じような状態になってしまう可能性があるというのである。

さらに驚くべきは、発達性トラウマ障害による脳の発達へのダメージが、先天的な発達障害よりも重篤な状態を引き起こす場合があることが、研究結果によって立証されているという事実。つまり一般の発達障害よりも、子ども虐待のほうが脳の機能的な変化がはるかに大きいということだ。端的にいえば、この部分が本書の核心である。

先天性の発達障害をもつ子どもがいたとしても、トラウマを経験しなければ発達障害を発症しないで済んだかもしれないということ。また、発達障害の症状がすでに出ている子どもがトラウマを経験すると、発達障害の症状を悪化させる可能性があるということだ。

それに加えて恐ろしいのは、先天的に発達障害をもっていない子どもであったとしても、幼少期に過激な虐待などを経験すると、その虐待をした人間のような獰猛な性格へと遺伝子が切り替わってしまう可能性があるという記述である。

ここで紹介されているのは、あいち小児保健医療総合センターに開設された診療科で子ども虐待専門の外来を設け、数千人に至る子どもとその家族の治療、臨床を行ってきた精神科医の杉山登志郎氏による、自閉症スペクトラム障害と虐待が結びついた場合の検証だ。

自閉症スペクトラム障害をもつ子どものなかで、年齢やIQ、性別などを一致させた者たちを抽出し、「虐待の有無」でどうなるかの比較をしてみたというのである。


いずれも中学生ほどの年齢で知的には正常であった。すると、「非行や触法行為を行っていない」者に子ども虐待がある割合が28%であったのに比べて、「非行や触法行為を行った」者の場合は56%と倍にも至った。これは、自閉症スペクトラム障害をもつ子どもに虐待という要素が注ぎ込まれると、非行に走る可能性が2倍になるということを示している。
 更に細かく調べてみると、ネグレクトでは3.7倍、身体的虐待があると6.3倍も非行が多くなることが明らかとなった。また、発達障害をもつ子どもに虐待があると、診断するのが1年遅れるごとに非行の危険性が1.2倍に高まってしまうということも明らかとなった。(86〜87ページより)

つまり発達障害にネグレクトや身体的虐待のような虐待が加われば、非行や触法行為に結びつく可能性が高くなるということ。よって著者は、発達障害と少年犯罪を結ぶものの正体は「虐待」と考えて間違いないと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中