イタリア高速道路橋崩落、的外れなEU批判が覆い隠す財政実態
8月15日、イタリア北部ジェノバで高速道路の高架橋が崩落し多数の死者が出た事故を巡り、老朽化したインフラ整備のためにEUがイタリアにもっと歳出拡大余地を認めるべきという警告だとの見解を同国政府は示した。14日撮影。写真は映像から(2018年 ロイター/Italian Firefighters Press Office/ via REUTERS)
イタリア北部ジェノバで多数の死者を出した高架橋の崩落事故を巡り、老朽化したインフラ整備のためもっと歳出拡大余地を認めるべきという警告だと、同国政府は欧州連合(EU)を批判した。
ただそうした姿勢は、イタリア国債の利回りを一段と押し上げる結果になりかねない。
サルビーニ副首相兼内相は、高速道路の高架橋で14日発生した崩落事故発生から数時間しか経過していない段階で、国内インフラの安全確保に必要な財政資金のすべてを来年度予算に盛り込むことをEUは許容しなければならない、と強調した。
今回の事故では、高さ約50メートルの高架橋が約80メートルにわたって崩落し、橋の上を走行していた自動車など約35台が巻き込まれ、少なくとも39人が犠牲となった。
ポピュリズム(大衆迎合主義)的な2つの政党が連立を組む現在のイタリア政権は6月の発足以来、既に減税や年金支給ルールの緩和、貧困層へのベーシックインカム提供などのために数百億ドル規模の歳出を計画している。さらに前政権が財政目標達成のためにEUと合意した付加価値税(VAT)の税率引き上げの発動も避けようとしている。
そこに今回のインフラ投資必要論が加わった格好だ。
このためイタリアにお金を貸している人々は、財政赤字に対する不安が募る一方となっている。
実際、サルビーニ副首相が高架橋崩落事故を機に、EUの財政赤字制限に疑問を投じると、15日のイタリア国債利回りは急速に上昇した。その後やや下げたものの、利回り水準はなおドイツ国債をかなり上回っている状態だ。
低い優先順位
トル・ベルガータ大学のグスタボ・ピガ教授(経済学)は、EUの財政ルールの有無にかかわらず、そもそもイタリア政府はインフラ整備を最優先の政策として掲げてこなかったと批判した。
ピガ氏は「イタリアはより多くの良質な公共投資を著しく必要としているが、それは近年政治家にとって優先事項ではなかった」と述べ、前政権に至ってはEUから投資に関する裁量を拡大するためにインフラ整備予算の一部を他の分野に回していたようだと指摘した。