相場操縦の中国人摘発、日中当局が初連携 国境またぐ不正に警鐘
中国との連携に壁 人脈作りに乗り出す
しかし、ここで証券監視委は頭の痛い事態に突き当たる。中国国内のいったい誰が発注したか分からなければ、不正取引の摘発が完結しない。
だが、外国における個人の特定は、その国の当局や関係省庁、銀行等の協力がなければ、実現不可能であることは、これまでの例でも明らかだった。
過去に中国当局とは調査における連携実績がゼロではなかったが、第三国から中国を経由した取引に関するものが多く、直接、中国在住の中国人を調査する案件は、ほぼ初めてのことだった。「人的なパイプが太くない当局の依頼に、果たして応じてくれるのだろうか」──。
証券監視委は、証券監督者国際機構(IOSCO)の当局間における情報交換に関する枠組みに基づき、中国当局に調査依頼を出していたが、現実に調査はなかなか前に進まなかった。
その時、偶然のタイミングながら証券取引監視委の引頭麻実委員が、17年5月のIOSCOの総会に出席することになっていた。同委員は職員らから人脈作りを託されることになった。
証券監視委は金融庁の審議会の1つとして位置づけられ、「準会員」としての参加だが、中国側のCSRCは正会員。やや立場が異なっていたが、証券監視委の事務局は総会の合間を縫って引頭委員と中国側のCSRCの出席者との面会を取りつけた。
引頭委員は取引監視の連携を深めたいと率直に話しかけ、事務局スタッフの訪中を提案。これをきっかけにして、日中の証券監視当局の行き来が始まり、金融庁の協力もあって、次第に人脈に厚みが増していった。
そして昨秋ごろには調査中の中国人個人投資家の特定に関する証券監視委による支援依頼に対し、中国当局も前向きに対応するようになっていた。
その後、相場操縦を行っていた20代男性の中国人個人投資家にたどりつき、6月26日には、相場操縦に対する課徴金納付命令を金融庁に勧告するに至った。
こうした日中連携の不正摘発は、中国でも複数のメディアが取り上げた。
引頭委員は「アジアの証券市場の発展のためにも、不正への警鐘につながる一歩であり、予防的アナウンスメント効果が大きい」との見解を示した。
中国側も、拡大するアジアのクロスボーダー取引から不正を排除する取り組みには、前向きの姿勢を示している様子がうかがえる。
(中川泉 編集:田巻一彦)