最新記事

金融犯罪

相場操縦の中国人摘発、日中当局が初連携 国境またぐ不正に警鐘

2018年7月17日(火)16時05分

中国との連携に壁 人脈作りに乗り出す

しかし、ここで証券監視委は頭の痛い事態に突き当たる。中国国内のいったい誰が発注したか分からなければ、不正取引の摘発が完結しない。

だが、外国における個人の特定は、その国の当局や関係省庁、銀行等の協力がなければ、実現不可能であることは、これまでの例でも明らかだった。

過去に中国当局とは調査における連携実績がゼロではなかったが、第三国から中国を経由した取引に関するものが多く、直接、中国在住の中国人を調査する案件は、ほぼ初めてのことだった。「人的なパイプが太くない当局の依頼に、果たして応じてくれるのだろうか」──。

証券監視委は、証券監督者国際機構(IOSCO)の当局間における情報交換に関する枠組みに基づき、中国当局に調査依頼を出していたが、現実に調査はなかなか前に進まなかった。

その時、偶然のタイミングながら証券取引監視委の引頭麻実委員が、17年5月のIOSCOの総会に出席することになっていた。同委員は職員らから人脈作りを託されることになった。

証券監視委は金融庁の審議会の1つとして位置づけられ、「準会員」としての参加だが、中国側のCSRCは正会員。やや立場が異なっていたが、証券監視委の事務局は総会の合間を縫って引頭委員と中国側のCSRCの出席者との面会を取りつけた。

引頭委員は取引監視の連携を深めたいと率直に話しかけ、事務局スタッフの訪中を提案。これをきっかけにして、日中の証券監視当局の行き来が始まり、金融庁の協力もあって、次第に人脈に厚みが増していった。

そして昨秋ごろには調査中の中国人個人投資家の特定に関する証券監視委による支援依頼に対し、中国当局も前向きに対応するようになっていた。

その後、相場操縦を行っていた20代男性の中国人個人投資家にたどりつき、6月26日には、相場操縦に対する課徴金納付命令を金融庁に勧告するに至った。

こうした日中連携の不正摘発は、中国でも複数のメディアが取り上げた。

引頭委員は「アジアの証券市場の発展のためにも、不正への警鐘につながる一歩であり、予防的アナウンスメント効果が大きい」との見解を示した。

中国側も、拡大するアジアのクロスボーダー取引から不正を排除する取り組みには、前向きの姿勢を示している様子がうかがえる。

(中川泉 編集:田巻一彦)



[東京 17日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 8
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中