もはや瀕死のWTO裁定機能 トランプがすべての裁判官指名に拒否権発動
トランプ大統領は今年、鉄鋼・アルミニウムの輸入関税に加え、中国による米国の知的財産侵害に対する報復として1500億ドル規模の関税を課すと表明して、国際的な反発を呼んでいる。
どちらも、WTOの紛争解決手続きに持ち込まれる可能性がある。
だが、上級委員会の無力化は、紛争解決手続きの導入以前の時代に単純に「ワープ」することを意味しない、とWTO上級委員会のウジャル・シン・バティア委員長は指摘する。
その代り、敗訴した側が上訴すれば、紛争は宙に浮いた状態になる。また、ルールが守られる見通しが立たなければ、新たなルールを交渉する意義もなくなる。
「上級委員会の麻痺(まひ)は、多国間の貿易システム全体の継続的な運営に、長く深刻な影を落とすだろう」と、同委員長は警鐘を鳴らす。
2017年初め以降、8件の通商紛争が上級委員会に上訴されており、今後もその件数は増える見通しだと、同委員長は言う。オーストラリアのタバコ規制を巡る紛争など、世界の健康関連政策におけるテストケースになると見込まれている案件も含まれる。
米国のシア大使は、WTO規制には「重要な価値」があり、一般的に世界経済の安定に貢献してきたと認めている。「しかし、何かが大きく間違ってしまった」と同大使は主張。
「上級委員会は、われわれの合意を書き換えて加盟国が交渉していない重要なルールを新たに導入しただけでなく、紛争解決の仕組みに関するルールを無視したり書き換えたりすることで、新たな規則を課す自らの力を拡大している」と、同大使は述べた。
WTOが、ダンピング(不当廉売)を調査する米国の手法を否定したことから、両者の関係に亀裂が生じた。これにより、トランプ大統領が「騙し取られている」と主張する中国に対抗する米国の力が、大きく削がれることになった。