中国「市場開放拡大は中米貿易摩擦と無関係!」
また中国共産党の機関紙「人民日報」も、中国政府の通信社「新華社」もそれぞれ激しく「中国がアメリカに譲歩した」という解釈を非難している。いうまでもなく中央テレビ局CCTVも特集を組み、抗議表明に満ち満ちていた。
改革開放拡大に関する習近平政権の施策
実際、改革開放を拡大深化させるための施策は、習近平政権に入るとすぐに実行に移されている。
習近平は2012年11月に中共中央総書記に選ばれ、2013年3月に国家主席に選出されているが、改革開放をさらに拡大深化させるための「中央全面深化改革領導小組(指導グループ)」が設立されたのは2013年12月である。習近平が組長、李克強と劉雲山、張高麗が副組長というメンバーだ。このことを以て日本では「習近平と李克強の権力闘争が激化した」と解説する中国研究者やメディアの何と多かったこと!
もともと「中央全面深化改革領導小組」の前身をたどれば、改革開放直後に国務院(政府)の中に国家経済体制改革委員会を設立し、1998年には国家発展改革委員会(前身は1950年設立)に吸収された。
習近平政権になってからは一党支配体制維持のために「党の力」を強化するため、国務院だけではこなしきれないと判断された組織は、「党組織」に改編されていった。その一環として誕生したのが「中央全面深化改革領導小組」である。
2018年3月には中共中央は、さらに「党と国家機構を深化させる改革法案」を発布し、「中央全面深化改革領導小組」を「中央全面深化改革委員会」に改称している。
ここに至るまでに、過去5年間で26回の会議を開催していることも見逃してはならない。
第19回党大会で
外交部の耿爽報道官が触れた「第19回党大会ですでに報告されている」という事実に関して、第19回党大会の開幕式における習近平の3時間半にわたるスピーチを再確認してみた。これは過去5年間にわたる党の活動報告と今後の抱負を述べたものだ。
するとそこには27回もの「開放」という言葉が使われていることを発見した。
まず「過去5年間で中国は改革開放と社会主義現代化建設に関して歴史的な成果を得た」とした上で、「開放型経済新体制」、「対外貿易」、「中国への投資環境の改善」、「輸入品関税の改善」、「知的財産権保護を強化」などが、詳細に述べられている。「これまでも改善に努めてきたが、新時代に入り、さらに改革開放の大門を拡大させる。改革開放には拡大と進歩があるだけで、終点はない」といった趣旨のことが述べられている。
特に改革開放と市場の拡大を強調しているのは、今年が改革開放40周年記念に当たるからで、中米貿易摩擦を意識してのものではない。
筆者としては、ことほど左様に外交部が言ったことが正しいなどということを言うつもりは毛頭ないが、中国の政策あるいは発信を自分に都合よく誤読するのは、今後の中国の動向を予測する上で、我が国にとって如何なるメリットもないと判断するので、以上、客観的事実を述べた。
トランプ氏が自分の大統領中間選挙に利するように国際情勢の解釈を恣意的に誘導している現状に、日本が無分別に同調していくことは慎みたいものだ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。