シリアの塩素ガス使用疑惑は、欧米諸国の無力を再確認させる
東グータ地方のドゥーマー市で化学兵器が使用され、被害者とされる住民の映像 White Helmets/Reuters TV-REUTERS
<シリアの首都ダマスカス近郊の東グータ地方で、再び起きた化学兵器使用疑惑は、欧米諸国の無関心を露呈させただけではなく、現実はさらに過酷なものだった>
東グータ地方(ダマスカス郊外県)のドゥーマー市で活動を続けてきたホワイト・ヘルメットとイスラーム軍は4月7日、ロシア・シリア両軍が同市に対する総攻撃で、焼夷弾、「樽爆弾」、地対地ミサイルに加えて、塩素ガスを使用したと発表、被害者とされる住民の画像や映像を多数公開した。
ホワイト・ヘルメットによると、呼吸困難を訴えた住民は1,000人以上に及び、死者数は「把握できない」ほど多いという。一方、イスラーム軍の広報部門であるクマイト通信は、少なくとも75人が死亡したと発表した。
シリアでは、国連安保理決議第2209号(2015年3月採択)により、サリン・ガスや神経ガスといった化学兵器だけでなく、塩素ガスの使用も禁じられている。だが周知の通り、同国では2012年以降、有毒ガスの使用が頻繁に報告されてきた。
2013年8月と2017年4月には、グータ地方とイドリブ県ハーン・シャイフーン市でシリア軍によるとされる化学兵器使用疑惑が浮上し、欧米諸国が干渉を強めたことは記憶に新しい。また最近では2月に、シリア軍、反体制派、西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)が塩素ガスを使用したとの情報が相次いで流れた。
反体制抗議運動がもっとも激しく展開してきた東グータ地方
今回塩素ガスが使用されたとされる東グータ地方は、「アラブの春」がシリアに波及した2011年3月から反体制抗議運動がもっとも激しく展開し、シリア軍が執拗に攻撃を続けてきた地域の一つだ。ドゥーマー市、ハラスター市、アルバイン市、ザマルカー町、アイン・タルマー村といった衛星都市と農村地帯からなる同地は、シリア内戦以前には219万人(2010年人口統計)を擁していた。だが、戦火のなかで多くの住民が避難、人口は35〜40万人ほどに減少した。
シリア軍は2012年12月、東グータ地方一帯への締め付けを強化し、2013年9月に完全包囲した。以降、この地域は孤立状態に置かれ、生活必需品(そして兵站)は周辺からの密輸に依存、深刻な人道危機に見舞われた。
ロシア、トルコ、イランを保証国とするアスタナ会議(2017年1月〜)の進展に伴い、各地で戦闘が収束に向かうなか、東グータ地方では抵抗が続いた。主導したのは「自由シリア軍」を自称するラフマーン軍団、このラフマーン軍団と共闘するアル=カーイダ系の二つの組織、シャーム解放委員会(旧シャームの民のヌスラ戦線)、シリア解放戦線(旧シャーム自由人イスラーム運動)、そしてサウジアラビアが支援してきたイスラーム軍だった。
2018年2月半ば、ロシア・シリア両軍は東グータ地方への攻撃を激化させ、反体制派に、武器を棄てて投降するか、シリア北部の反体制派支配地域に退去するよう迫った。同時に、住民には政府支配地域に避難するよう呼びかけ、「安全回廊」を通じた脱出を促した。