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移民は「勤勉な労働者」か、それとも「怠惰な居候」か

2017年10月4日(水)11時40分
ロバート・ローソーン(ケンブリッジ大学名誉教授)、デビッド・ルジカ(オドリスノスト共同創設者)

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ドイツの首都ベルリンで開催された難民・移民のための就職フェアには大勢の希望者が集まった Fabrizio Bensch-REUTERS

不安をあおる排除の理論

一般論として言えば、異なる文化圏からの移民は受け入れ国の経済に異なる技術や新鮮な発想をもたらす。大卒者の出身国の多様性と、受け入れ国の生産性向上や経済成長の間に正の相関関係があることは知られている。アメリカでは大手企業上位500社のうち40%以上では、創業者が移民か移民2世だ。

またルーベン大学の経済学者フレデリック・ドックイアー教授らは、途上国からの移民が受け入れ国の国家予算や賃金、消費者市場にもたらす経済的影響を調べてきた。91年からの25年間に20の先進国に到着した移民について調べたところ、受け入れ国の人々は移民の貢献による一定の恩恵を感じていた。

移民は「怠け者」という主張はどうか。ドイツとスウェーデンは移民に対して最も寛大な国とされるが、それでも移民の全てがこの2カ国に集中しているわけではない。昨年には確かにシリア難民の多くがドイツやスカンジナビア諸国に向かったが、エリトリア難民はスイスを、アフガニスタン難民はハンガリーを目指した。

難民たちは失業率の低さや福祉の充実度を調べた上で国を選んでいるのか。違う。たいていの難民申請者には、そんなことを調べる余裕もなければ知識もない。むしろ自国を脱出する際の状況や手段で行き先が決まってしまう場合が多い。彼らに選択の余地があるとしても、たいていは親族や同胞が暮らす国、あるいは多少なりとも言語を理解できる国を選ぶものだ。

難民認定の手続きが迅速かつ寛大な国を選ぶ可能性は否定できない。しかし私たちの調べた限り、福祉の充実度が行き先選びの決め手になると立証した研究はない。先進諸国の受け入れ策について、彼らが何かを知っていたとしても、多くの場合は噂に基づく知識だ。その噂も、ほとんどは密入国斡旋業者の出任せだろう。

難民・移民を受け入れたくない政治家たちは、きっと「シュレーディンガーの移民」の思考実験などに耳を貸さない。そして移民は国内の雇用を奪い、国民の税金を奪うという俗説を振りかざし続けるだろう。

そんなことでは状況は変わらない。難民・移民をめぐる議論を、国民の不安と恐怖をあおる排除の論理で進めるのは不毛なことだ。新たにやって来る人たちが自国にどんな利益をもたらすか。そこを議論しなければ矛盾は解消できない。

【参考記事】スーチー崇拝が鈍らせるロヒンギャ難民への対応

(c) Project Syndicate

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[2017年9月26日号掲載]

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