フェイスブックの辣腕AI交渉人は、相手の心を読みウソもつく
さらに、より早くタスクをこなすために、AI同士が人間には理解できない言語で会話を始めた。何やら陰で私たちの噂話をされているような気分だ。
FAIR の研究チームは問題のAIのプログラムを書き換え、通常の英語を話すように修正した。ボットと交渉するボットではなく、あくまでも「人間と会話ができる」AIの開発を目指しているからだ。
感情コンピューティング
AIに人間の感情を理解させる研究も進んでいる。これも交渉の重要な要素だ。例えば家を売る場合、購入希望者が感情的に気に入っているかどうかを判定するプログラムがあれば、価格を引き上げやすくなる。
この分野の第一人者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のロザリンド・ピカード教授は、一連の研究を「感情コンピューティング」と呼ぶ。彼女が立ち上げに協力したスタートアップのアフェクティーバは、AIに人間の表情や生理反応を読み取らせ、感情の分析を学習させる。この技術を基に、例えばCMに対する消費者の反応を確認しやすくなる。
ロシアのツセリーナ・データ・ラボは、感情を読み取って人間のウソを見分けるソフトウエアを開発している。交渉ボットは私たちがウソをついていることを見抜けるが、ボットがウソをついても私たちには分からないとしたら......。
【参考記事】AIの思考回路はブラックボックス
交渉ボットのアプリケーションにはAIアシスタントなど役に立ちそうなものも多い一方、悪夢を連想させるものもある。債権回収ボットを開発しているトゥルーアコードのオハド・サメットCEOは次のように語る。
「債務者は不安と怒りを抱えているが、時には彼らに現状を突き付け、解決を迫らなければならない。同情し過ぎることが、消費者にとって最善ではないときもある」
債権回収ボットはかなりのこわもてとなるだろう。「全額返済、延滞利息は1日25%。払えなければ橋脚のコンクリートに埋め込む、以上」
同情は一切抜きで取引をまとめ、自分が望む結果を得るために必要なことは言いたい放題。好き勝手に言葉を操り、内輪のやりとりは誰も理解できず、話している限りでは人間と見分けがつかない。やはり「AIトランプ」なのだろうか。
うかうかしていると、交渉ボットに世界を支配されかねない。
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[2017年9月 5日号掲載]