最新記事

AI

フェイスブックの辣腕AI交渉人は、相手の心を読みウソもつく

2017年9月4日(月)11時25分
ケビン・メイニー

さらに、より早くタスクをこなすために、AI同士が人間には理解できない言語で会話を始めた。何やら陰で私たちの噂話をされているような気分だ。

FAIR の研究チームは問題のAIのプログラムを書き換え、通常の英語を話すように修正した。ボットと交渉するボットではなく、あくまでも「人間と会話ができる」AIの開発を目指しているからだ。

感情コンピューティング

AIに人間の感情を理解させる研究も進んでいる。これも交渉の重要な要素だ。例えば家を売る場合、購入希望者が感情的に気に入っているかどうかを判定するプログラムがあれば、価格を引き上げやすくなる。

この分野の第一人者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のロザリンド・ピカード教授は、一連の研究を「感情コンピューティング」と呼ぶ。彼女が立ち上げに協力したスタートアップのアフェクティーバは、AIに人間の表情や生理反応を読み取らせ、感情の分析を学習させる。この技術を基に、例えばCMに対する消費者の反応を確認しやすくなる。

ロシアのツセリーナ・データ・ラボは、感情を読み取って人間のウソを見分けるソフトウエアを開発している。交渉ボットは私たちがウソをついていることを見抜けるが、ボットがウソをついても私たちには分からないとしたら......。

【参考記事】AIの思考回路はブラックボックス

交渉ボットのアプリケーションにはAIアシスタントなど役に立ちそうなものも多い一方、悪夢を連想させるものもある。債権回収ボットを開発しているトゥルーアコードのオハド・サメットCEOは次のように語る。

「債務者は不安と怒りを抱えているが、時には彼らに現状を突き付け、解決を迫らなければならない。同情し過ぎることが、消費者にとって最善ではないときもある」

債権回収ボットはかなりのこわもてとなるだろう。「全額返済、延滞利息は1日25%。払えなければ橋脚のコンクリートに埋め込む、以上」

同情は一切抜きで取引をまとめ、自分が望む結果を得るために必要なことは言いたい放題。好き勝手に言葉を操り、内輪のやりとりは誰も理解できず、話している限りでは人間と見分けがつかない。やはり「AIトランプ」なのだろうか。

うかうかしていると、交渉ボットに世界を支配されかねない。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年9月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月モノの貿易赤字、1029億ドルに拡大=商務

ワールド

北朝鮮兵、先週1000人死傷 ロシア西部クルスク州

ワールド

イエメン国際空港空爆で重症の国連職員、ヨルダンに移

ワールド

アゼルバイジャン航空機の乗客ら、墜落前に爆発音と証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健康食品」もリスク要因に【研究者に聞く】
  • 4
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 5
    ロシア軍の「重要」飛行場を夜間に襲撃...ウクライナ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    地下鉄で火をつけられた女性を「誰も助けず携帯で撮…
  • 8
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    「不法移民の公開処刑」を動画で再現...波紋を呼ぶ過…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 10
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中