インドのしたたかさを知らず、印中対決に期待し過ぎる欧米
インドビジネスの強みはバランス感覚 Mukesh Gupta-REUTERS
<係争地で緊張を高めるかに見える「竜(中国)」と「象(インド)」。それでも対中包囲網の強化を期待できない理由とは>
これからの世界の両雄、中国とインドの関係がきな臭い。
6月16日に中国軍はブータンとの係争地ドクラム高地に侵入して、道路建設を開始した。ここはインドの中心部と北東端アルナチャルプラデシュ州を結ぶ回廊に近い戦略地点。中国軍はブータンとインドの抗議を尻目に居座っている。
今回の関係悪化は4月に始まった。4日にチベット仏教の最高指導者でインドに亡命しているダライ・ラマ14世がチベットのすぐ隣、アルナチャルプラデシュ州を訪問し、約1週間滞在してからだ。
5月14日に北京で開かれた一帯一路サミットにインドは参加を見送った。中国がインドと係争中のカシミール東部で開発を進めようとしていると不快感を表明し、国境問題を持ち出した形だ。さらに6月3日朝に、中国軍の攻撃ヘリがインド北部のウッタラカンド州に侵入した。
インドと中国は決別した――そう早とちりして欧米がインドを引き込むチャンスと思い込むと手痛い目に遭うだろう。インドはアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーだ。中国も6月9日の上海協力機構(SCO)首脳会議で、これまでの抵抗をやめてインドの加盟を認めている。
インドは米中ロ各国と付かず離れず、バランスを取るのにたけている。例えば軍事面でインドはロシアと陸海空の共同演習を、日米とは東シナ海やインド洋で海軍共同演習を定期的に行う。さらに中国を南北で挟む位置にあるモンゴルとも小規模共同演習を行う一方で、インドは中国とも共同演習を続けている。
【参考記事】「インドと戦う用意ある」中国が中印国境で実弾演習
親密な「竜象共舞時代」
インドにとってこれまで、最大の脅威は隣国パキスタン。もともと一つの国だったのが宗教を理由に別の国となり、カシミールで領土係争を抱え、テロを仕掛けてくるからだという。
だが、中国はいま押せ押せムードだ。ネパールではインドの影響力を覆す勢いだし、アフリカ東部のジブチに海軍基地を設けた。さらにインド洋ではパキスタンのグワダル港やスリランカのコロンボ港などの整備も手掛け、モルディブでも地歩を築いている。まるで「真珠の首飾り」でインドを締め上げるかのようだ。
ただ、インドは中国海軍を深刻な脅威とは思っていない。中国艦船の多くはマラッカ海峡を通ってインド洋に入る。その途上にあるアンダマン・ニコバル諸島にはインド海軍の基地があり、中国海軍を捕捉できる。インド海軍には中国空母「遼寧」に匹敵する空母もある。