最新記事

海外ノンフィクションの世界

海の水は宇宙からやって来た? 私たちはまだ海を知らない

2017年7月12日(水)16時51分
千葉啓恵 ※編集・企画:トランネット

trannet170712-2.jpg

ミゾレフグ(『海のミュージアム――地球最大の生態系を探る』より) ©Getty Images

世界のことを知らない自分に気付かされる

本書には続編があり、7月20日に『樹のミュージアム――樹木たちの楽園をめぐる』(ルイス・ブラックウェル著、筆者訳、創元社)が刊行予定だ。

どちらの本でも、自分が思っている以上に世界のことを知らないのだと気付かされる。

だが、本書のエッセイに目を通していくと、地球や海の成り立ちについての漠然としたイメージがよりはっきりした輪郭を持つようになり、自分では想像もつかない世界が未だにこの地球に存在することを実感できるだろう。

深海に住む生物はダイオウイカのように巨大なものが多いが、それはなぜなのか。登場する数々の謎に興味をかき立てられる。また、水深1万メートルに到達した人間(3人)より月を訪ねた人間のほうが多いというのも、翻訳をした筆者には意外だった。調べてみたのだが、月面を歩いた人間は12人だそうだ。

本書は「海」というものについて実に多くの側面から眺め、さまざまな話題を紹介している。そこから形作られる海のイメージは、それまでのものとはまったく違う、新たなものとなるだろう。

【参考記事】国連「持続可能な開発目標」を自分ごとに意識させる写真

印象的なセンテンスを対訳で読む

以下は『海のミュージアム――地球最大の生態系を探る』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。

●How inappropriate to call this planet Earth when it is quite clearly Ocean.
(この惑星を地球と呼ぶのはどんなにおかしなことか。"海球"であることは明らかなのに)

――本書にちりばめられている、海にまつわる数々の引用句のひとつで、SF作家のアーサー・C・クラークが述べたもの。本書の写真を眺めていると、クラークがなぜそう述べたのか共感できることだろう。

●Our minds quickly conjure up a sensation---the sound of the waves, the smell of the brine, the sensual touch of moving water---and then a story or two when the words "sea" or "ocean" are mentioned.
(「海」という言葉を聞くと、すぐに波の音や潮の匂い、流れる水の官能的な感触や、いくつかのエピソードが呼び覚まされる)

――海は私たちの記憶に深く刻み込まれている。読者も、「海」という言葉で何を思い起こすのかぜひ試してみてほしい。なお本書では、英語の"sea"と"ocean"の違いについても解説されている。

●Most of the creatures and plants that share this planet with us are actually out of sight, for all the apparent congestion in the spots we inhabit.
(人間の住む場所は一見混雑しているが、実際には地球のほとんどの生物や植物は人間の目の届かないところにいる)

――地表の71%は海であり、人間は海中では生きられない以上、そこには人間のまったく知らない世界が広がっている。その1例が、グレート・バリア・リーフのサンゴや褐虫藻、カイメン、魚などによる広大で複雑な生態系だ。

◇ ◇ ◇

本書を読む際、身構える必要はない。時間がある時に手にとって、興味を引かれたページをめくっていくと、海や世界を見る目が少しずつ変わってくる。そんな経験が楽しめる1冊だ。


『海のミュージアム――地球最大の生態系を探る』
 ルイス・ブラックウェル 著
 千葉啓恵 訳
 創元社

トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
http://www.trannet.co.jp/

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三村財務官、AI主導の株高に懸念表明

ビジネス

仏サービスPMI、10月は48.0 14カ月連続の

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁発足 来年から

ビジネス

PayPayの米上場、政府閉鎖で審査止まる ソフト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中