中東の盟主サウジアラビアが始めたアジア重視策
アメリカはどうか。シェール革命のおかげで今のアメリカは石油大国になったが、サウジが中東における最大の貿易相手国である事実に変わりはない。サウジは約180億ドルの米国産品を輸入する一方、対米輸出も約170億ドルに上っている。
トランプ新大統領と会談したムハンマド副皇太子は、さっそくビジョン2030を売り込んだ。事後にトランプ政権が発表した文書によると、相互利益と両国における「何百万」もの雇用創出をもたらす2000億ドル規模の合弁事業を含む経済協力について協議したという。
ただし、サウジが前のめりで親米路線を突き進むには大きな障害がある。昨年9月に米議会で成立した「テロ支援者制裁法(JASTA)」だ。副皇太子の訪米直後には9.11米同時多発テロの犠牲者遺族800人と負傷者1500人が、この法律に基づいてサウジアラビア政府を提訴している。
サウジのハリド・ファリハ石油鉱物資源相は、「是正措置」が講じられるだろうと楽観的な発言をしたが、サウジの対米投資意欲が冷え込み、予定されるサウジ・アラムコのIPO(新規株式公開)の市場選定に影響するかもしれないとも語った。
昨年10月にはサウジの政府系投資ファンドPIFが、日本のソフトバンクグループと共に設立するファンドに450億ドルを拠出すると発表した。これもJASTAがらみの緊張でアジア企業が得をする可能性を示している。しかしJASTA成立を拒否権で阻止しようとしたオバマ前大統領の行為を「恥知らず」と呼んだトランプが、この法律を修正する見込みはない。
そんな事情もあってか、サウジ側が会談後に発表した文書はもっぱら、安全保障面の協力関係に焦点を当てていた。トランプ政権の出方が予測不能で、アメリカがサウジの原油に依存していない現状では、両国を結び付ける鍵はイランという名の共通の脅威しかないのだろう。ちなみにムハンマドは、メキシコ国境の壁建設やイスラム教徒の入国一時停止といった強権的な政策に異議を唱えず、「内政不干渉」で片付けている。
【参考記事】イスラエルとサウジの接近で思い出す、日本大使館のスパイの話
中国とドローン生産も
トランプ政権はイエメン内戦に介入し、イランが背後にいるとされるシーア派武装勢力ホーシー派を攻撃するだろうか。予測は不能だが、市民の巻き添えを恐れて慎重だったオバマ政権よりは積極的に動くだろう。