知っておきたい、インサイダー取引になる場合・ならない場合
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<投資をしていれば誰でも、株価の変動に繋がりそうな情報をいち早く掴みたいものだが、思わぬ「うっかり」でインサイダー取引になる危険性は数多い。わかりづらいのにペナルティが厳しいインサイダー取引のルールを解説>
みなさんは株を売買する際、どのような情報源をもとに判断していますか? 株価の上昇や下落に繋がりそうな情報を誰よりも早く掴み、先回りして売買したいものです。しかし、先回りの度が過ぎてしまえば、金融商品取引法166条で定められた「インサイダー取引」という犯罪になってしまいます。
「私はそんな悪いことはしない」「自分には関係ない」と思っている人も多いかもしれませんが、思わぬ「うっかり」でインサイダー取引になってしまう......という危険性は、みなさんの身近に数多くあります。自分の身と資産を守るために、どういうルールなのかを理解しておきましょう。法律ならではの"複雑怪奇さ"も、法律ライターの私がわかりやすく解説します。
インサイダー取引ってどんな罪?
インサイダーとは「内部者」という意味です。株価に影響する出来事が会社の関係者やそれに近い一部の人々にしか知られていない段階で、その情報を利用してこっそり儲けようとする行為を、犯罪として取り締まっています。それは、証券市場の信頼性を崩しかねない"こずるい抜け駆け"だからです。
実は、業務上過失致死罪よりも重い罪!
内部情報を利用した取引が「犯罪」とみなされて警察や検察のお世話になり、裁判所に起訴されると、懲役(1か月~5年)か罰金(1万~500万円)が科されてしまうかもしれません。重い刑罰ですね。
ちなみに、医師の医療ミスや飲食店での食中毒などが原因で人が死亡した場合は、「業務上過失致死罪」により、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が科されることになります。インサイダー取引は、それらよりもっと重い罪に設定されているのです。
さらに、インサイダー取引で得た"こずるい収益"は、没収の対象になりますし、その収益をもとに不正な儲けを出した場合などは、「追徴金」というペナルティを課されることもあります。
金融庁に調べられると会社に知られるリスクも
また、犯罪処罰の手続きに乗せて立件するほどではないと判断された場合でも、金融庁から別に「課徴金」というペナルティを受けることがあるため、ダブルの注意が必要です。金融庁の一組織である証券取引等監視委員会(SESC)による「勧告」が、検察による起訴にあたり、金融庁による課徴金納付命令が、裁判所による判決に相当します。
過去には「4万円」「5万円」といった額の課徴金が命じられた例がありますが、一般的には数百万、数千万円のオーダーで課されますので、決して油断なりません。もっと怖いのは、インサイダー取引の疑いでSESCの調査対象になると、勤務先にその事実が知られる可能性が高い点です。たとえ何かの間違いで、まったく身に覚えがなくとも、懲戒解雇されてしまうリスクがあるのです。
(参考記事)要注意! 「退職金で投資デビュー」の取り返しのつかない落とし穴
複雑なルールをざっくり解説
インサイダー取引の規定は、非常に複雑なものになっています。
規制が厳しすぎると、みんなが取引を怖がって株の出来高が減りかねませんし、かといって規制が緩すぎると、証券市場がフリーダムになりすぎて、公平性が保たれません。ちょうどいい境界線の位置を探り当てるため、せめぎ合いや微調整を繰り返しているうちに、複雑怪奇な規制になってしまったのです。その試行錯誤は、今後も続くのでしょう。
6つの要件すべてに当てはまるとNG
そこで、細かいところは気にせず、まずはインサイダー取引の規制ルールがどうなっているのか、空飛ぶ鳥が大地を見下ろすイメージで"ざっくり"と概観して、大まかにでも掴んでおくことが大切です。まず、インサイダー取引の要件はこのようになっています。
1.会社関係者等や第一情報受領者が 【内部者】
2.上場会社等に関する 【株式の発行元】
3.重要事実を 【インサイダー情報】
4.知りながら 【故意】
5.(重要事実が)公表される前に 【規制される期間】
6.(上場会社等の)株式の取引を行うこと 【規制される行為】
これらすべてに当てはまる場合をインサイダー取引といいますので、これらの6項目に分けて見ていくのが、わかりやすいでしょう。「どこからがNGなのか?」の境界線がわかりにくいため、なるべく具体例をあげながらご説明していきます。