肩透かしに終わった米中「巨頭」会談
放置できない重要課題
首脳会談後、トランプと習が共同記者会見を開くこともなかった。代わりに会見したティラーソンは、要するに米中両国が「意見が一致しないことで一致した」ことを示唆した。
「トランプ大統領は、習国家主席と中国がアメリカの取り得る措置についてアイデアを出すことを歓迎し、中国側と喜んで協力する旨を伝えた。ただ、それが中国側に問題を生じさせることをアメリカは理解しており、両国が連携できない場合は、単独行動を取る用意がある」
この展開は決して意外なものではない。これまでトランプは何かと中国を厳しく批判してきた。それも対米貿易黒字や「為替操作」から、北朝鮮への圧力、南シナ海における軍事活動など幅広い。大統領就任を目前に控えた段階で、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談して、中国を挑発したこともある。
これに対して中国は辛抱強く様子見の姿勢を維持してきた。そしてついに、トランプは管理可能という判断を下したようだ。理由は主に3つある。
まず、蔡との会談後の騒ぎを受け、トランプはアメリカの歴代政権と同じく、「一つの中国(台湾は中国の一部である)」という中国の公式見解を尊重する姿勢を示すようになった。
【参考記事】トランプから習近平への「初対面の贈り物」
第2に、2月末に訪米した中国外交トップの楊潔篪(ヤン・チエチー)国務委員が、トランプをはじめ複数の政府高官と会談して、米中首脳会談の早期実現に向けた地ならしに成功した。
第3に、先月半ばに訪中したティラーソンが、中国に対して驚くほど柔軟な姿勢を示した。ティラーソンは、「非衝突・対立」「相互尊重」「ウィンウィン・協力」など、中国が新たな米中関係を定義するとき使う表現を、自ら口にさえした。
こうしたアメリカ側の奇妙な譲歩(意図したものではないかもしれないが)を受け、中国は、「アメリカは台湾や海洋主権など中国の核心的利益についても、従来の批判を引っ込める可能性がある」と結論付けた。
とはいえ、トランプ政権の矛盾するメッセージについては、アメリカ国内からも困惑の声が上がっている。中国専門家のほとんどは、中国の言葉遊びや「空約束」を真に受けるなと、トランプ政権に警告している。それに中国との関係では、言葉にならないことのほうが重要な意味を持つ場合がある。
また、中国との関係では1つや2つの問題だけに気を取られるべきではない。トランプが今回の会談で、北朝鮮と貿易をテーマにしたがっていたのは明白だ。どちらも重要な問題ではあるが、海洋安全保障やサイバー攻撃、中国軍の近代化といった重要課題を放置すれば、後で痛い思いをしかねない。
[2017年4月18日号掲載]