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ロンドンテロ:加速してくる暴走車と地獄を見た目撃者

2017年3月23日(木)14時55分
ジャック・ムーア

ウェストミンスター橋で暴走車にはねられた人 Toby Melville-REUTERS

<ロンドンのウェストミンスター橋の歩道に乗り上げて人々をなぎ倒した暴走車を辛うじてかわした青年が見たもの>

マーケティングディレクターのロブ・リヨン(34)は、出張でロンドンにいた22日午後、市中心部で起きた連続殺傷事件に出くわした。国会議事堂に隣接するウェストミンスター橋の上では暴走する乗用車が通行人を次々にはねて少なくとも3人が死亡、多数の重軽傷者を出した。リヨンは現場にいながら間一髪で命拾いした1人だ。ロンドン警視庁はテロ事件として捜査を始めた。

【参考記事】ロンドン襲撃テロ事件で死者4人・負傷40人 英首相「異常で邪悪」

事件の直前、仕事を終えたリヨンと2人の同僚は、テムズ川の対岸にあるホテル、パークプラザ・ウェストミンスター・ブリッジに戻るところだった。徒歩で15分ほどの距離だ。ウェストミンスター橋に差しかかると、セルフィー(自撮り)を楽しむ観光客のグループとすれ違った。翌日からのロンドン観光のプランについてあれこれ話す会話が聞こえてきた。

「その時突然、ドスンという大きな音がした」とリヨンは言う。彼が記者に当時の様子を語る間も、向かいのセントトーマス病院には事件の犠牲者が緊急車両で運び込まれ、多数の警察官や報道陣でごったがえしていた。

加速した暴走車

車が衝突したのかと思ったが、実際はタイヤが歩道の縁石にぶつかった音だった。

「車が歩道に乗り上げるのが見えた。灰色のような黒っぽい車が歩道を暴走し、こっちに向かってきた」。リヨンの印象では、最初は時速30キロぐらいだった車が65キロぐらいまで加速したように見えた。

【参考記事】ISISのロンドン襲撃テロは時間の問題だった

呆然とするリヨンに、同僚が叫んだ。「逃げろ!」

車道に飛び降りたリヨンは、間一髪で暴走車をかわした。「考えるだけで恐ろしいが、おそらく車と自分の間隔は1メートルぐらいだった」。彼は助かったが、暴走車は他の通行人を見逃さなかった。

「人々が目の前ではねられていった。乗用車はそのまま橋の向こう側へ突進した」。その時点で5人ほどが近くに倒れていた。

リヨンはショックで立ちすくんだ。「暴走車に人々がはねられる光景は悲惨だった。駆け寄って助ける気力もなかった。しばらくじっと立って眺めていた」

正気に戻ると、自分のコートを負傷した女性の枕代わりに差し出した。

突進してきた運転手の顔は見えなかったが、地面には倒れた人々と血が散乱していた。ロンドン市警は犯人について、議事堂の敷地内に侵入し刃物で警官を襲った男と同一人物と見ている。刺された警官は間もなく死亡した。犯人は警察が射殺した。

【参考記事】英議事堂テロ、メイ首相が不屈の精神を訴え<声明全文>

今リヨンに言えるのは、生き残った自分は運が良かったということだ。1度にできるだけ多数の死者を出すことを目的にするテロ攻撃では、犠牲者は無差別に狙われる。もしリヨンがあの瞬間に歩道から飛び降りていなければ、彼がもう1人の犠牲者となっていただろう。


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