最新記事

日米関係

外為市場は日米首脳会談を注視、「トランプ砲」発射なら円高も

2017年2月10日(金)10時15分

 2月9日、日米首脳会談をめぐる外為市場の見方は、会談後の円安予想と円高予想に二分されている。日米同盟の強さが強調され、円安に戻るとの声がやや優勢だが、不規則発言を連発するトランプ大統領に注目する参加者は、円高予想に傾いている。2013年2月撮影(2017年 ロイター/Shohei Miyano)

日米首脳会談をめぐる外為市場の見方は、会談後の円安予想と円高予想に二分されている。日米同盟の強さが強調され、円安に戻るとの声がやや優勢だが、不規則発言を連発するトランプ大統領に注目する参加者は、円高予想に傾いている。通貨オプションでは「無難」な結果を織り込んで円安に備える動きも見られる一方、はしごが外されることへの警戒感も根強い。

<オプション市場は円高予想が減少>

日米首脳会談を控え、今週の外為市場でドル/円は、111.50─112.50円の狭いレンジ取引となっている。しかし、通貨オプション市場をみると、「円安期待」がほのかに見え始めている。

ドル/円のリスク・リバーサル(RR)25%デルタは、ドル安・円高方向を示すドル・プット・オーバーの傾きが、足元では0.3%―0.4%に低下。トランプ米大統領の円安けん制発言直後に1.3%付近まで急拡大したが、7日ごろから傾き縮小の傾向が出始めている。

まだ、ドル・プット・オーバーの状態ではあるが、あおぞら銀行・市場商品部部長、諸我晃氏は「首脳会談の無難な結果を踏まえた(ドルの)アップサイドのリスクに備える動きだろう」と指摘する。

ドル高期待のシナリオはこうだ。日米首脳会談で、トランプ大統領は為替・通商面で具体的な注文・不快感を表明せず、日米同盟の強固さと友好関係を強調。首脳同士の信頼構築を前面に打ち出す──。

その見方を強めているのが、「ゴルフ外交」の演出。10日の首脳会談後、フロリダの大統領別荘に宿泊。翌日には近くのゴルフ場でプレーする。「友好ムードが醸成されれば、円売りが再開しそうだ」(国内金融機関)という。

日本側の「手みやげ」効果に注目する市場関係者の声もある。関係筋によると、日本政府が作成を進める「日米成長雇用イニシアチブ」には、米国内のインフラ投資で4500億ドル(約51兆円)の市場創出効果があり、70万人の雇用を生み出すと明記されるという。

「好評価されれば、対日の強硬姿勢が和らぐかもしれない」(同)というわけだ。今回の首脳会談で厳しい批判が出なければ「115円方向に戻す余地が生まれる」(邦銀)との思惑も出ている。

<トランプリスク重視派、円高予想>

一方で、円高への不安感も市場には根強くある。

7日発表の12月米貿易収支は、3カ月ぶりの赤字額縮小だったが、国別の貿易赤字額で日本がドイツを抜いて2位に浮上。1位の中国とともにトランプ大統領の批判の矢面に立つのではないか、との警戒感が市場でくすぶる。

トランプ大統領は、日本の自動車メーカーへの圧力を強めており、「数値目標など日本の受け入れ難い要求を突き付け、交渉が難航する間にも、ドル高/円安への口先介入を進めるという1990年代の自動車摩擦の際と同様の展開となる可能性も排除できない」と、JPモルガン・チェース銀行の為替調査部部長、棚瀬順哉氏は指摘する。

なかでも日銀の金融緩和政策が批判されれば「日銀は手足を縛られかねないとの思惑で円高になりそうだ」(別の国内金融機関)との見方は多い。イールド・カーブ・コントロールは世界の中銀でも前例を見ない取り組みであり、「やり過ぎと言われたら苦しい」(同)との声もある。

トランプ大統領から日本の政策に対する厳しい批判が出れば「ドルは110円割れもありえる」(りそな銀行の総合資金部クライアントマネージャー、武富龍太氏)という予想も出ている。

<無難通過でも残る「不透明感」>

また今回の会談が無風だったとしても、不透明感は払しょくされそうにない。トランプ大統領が不規則発言を繰り返してきただけに「常識的な外交を期待すると、はしごを外されかねない」(別の邦銀)との警戒感は根強いためだ。

さらに、みずほ証券・チーフ為替ストラテジスト、山本雅文氏は「日本があまり対米追従的な姿勢を取ると弱腰と捉えられ、安倍政権の支持率低下と円高圧力につながるリスクもある」と指摘している。

ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は、この先もトランプ大統領による口先介入などが予想され、「手放しで118円を目指すような展開は想定しにくい」と話している。

(平田紀之 編集:田巻一彦)



[東京 9日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中