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携帯電話ソフトバンクにスマホゼロ円販売禁止の試練、見返り求める代理店も
10月18日、スマートフォン市場の成長が鈍化する中、ソフトバンクが販売改革に乗り出している。これまでの量をさばく手法から転換、サービス強化で顧客満足度を高める方向にかじを切った。都内で5月撮影(2016年 ロイター/File Photo)
スマートフォン市場の成長が鈍化する中、ソフトバンクが販売改革に乗り出している。これまでの量をさばく手法から転換、サービス強化で顧客満足度を高める方向にかじを切った。
だが、現場からは「それを金銭面で評価する仕組みになっていない」(一部の販売代理店)と不満の声も上がっており、消費者重視の販売体制が実現するにはなお時間がかかりそうだ。
添付率はノルマか
「在庫がないので、近隣の他店へ行って下さい」──。あるソフトバンクショップの関係者は、在庫があるにもかかわらず、時として来店した客を追い返さざるを得ない状況について苦しい胸の内を明かした。
この関係者によると、ソフトバンクは新規・機種変更の総処理数に対するスマホや光サービスの販売比率(添付率)を重視しており、代理店にはその目標が重くのしかかっているという。
添付率を上げるには、スマホと光サービスの契約を積み上げることが一番重要となるが、仮に売れない場合は総処理数をなるべく低く抑え込むことも必要となる。
そこで起きるのが、スマホや光サービスに関係ない顧客を他店に誘導するケースだ。従来型携帯電話(ガラケー)の希望者や光サービスを契約する意思のない機種変更の顧客が誘導の対象になりやすいという。
添付率は代理店別、店舗別、スタッフ別にチェックされており、この関係者は「添付率が低いスタッフや店舗が評価を上げるために、ガラケーを求める客を他の店に誘導するケースもある」と打ち明ける。
ソフトバンクの佐々木一浩執行役員は添付率について「状況を確認するために見ることはあるが、ゴールの数字ではない」とノルマであることを否定したが、代理店の中には固定添付率1位でソフトバンクから表彰されたことをホームページで紹介している店もあり、意識されている数字であることは確かなようだ。
先の関係者によると、ソフトバンクは現在、添付率40%という目標を掲げている。
レ点商法からの決別
スマホの成長が鈍化する中、代理店を取り巻く環境は厳しさを増している。追い打ちをかけているのが、国の政策だ。総務省は大手3社による過剰なスマホ購入補助がMVNO(仮想移動体通信事業者)の成長を妨げていると判断。実質ゼロ円でのスマホ販売を禁止した。この結果、販売にブレーキがかかり、代理店の経営を圧迫している。
こうした中、ソフトバンクはこれまでの販売手法を改め、顧客重視の方向にかじを切った。トラブルの原因となっていた、顧客に不要なオプション契約を迫る販売手法を廃止。全国の代理店に「(申込書のチェックボックスにレ点をつけることでオプション契約に同意したと見なして販売する)レ点獲得は原則もうしなくていいという通達を出している」(佐々木氏)という。
だが、代理店の一部からは冷めた声も聞こえてくる。ソフトバンクがいくら改革の旗を振っても、手数料体系がスマホや光サービスの販売に偏っていれば、目先の数字を追わざるを得ないためだ。
佐々木氏は「ビジネスなので目標はあるが、未達だったからといってペナルティはない」と話すが、先の関係者は「精査基準というソフトバンクが定めた実数目標を提示され、未達成だと支援金はゼロになる」とこぼした。
関係者によると、ソフトバンクは手数料体系にこまめに手を加えており、「数年前のままだったら代理店は相当厳しい状況に陥っていた」(別の代理店)と評価する声もあるが、負担が増える一方にもかかわらず、それを金銭面で評価する仕組みがないと不満を募らせる代理店も少なくない。
しわ寄せは消費者に
代理店へのプレッシャーは、消費者へのしわ寄せとなって表れている。消費生活センターなどに寄せられた2015年度の電気通信サービスの苦情・相談件数は約8万件と、この3年間で1.9倍に増加した。「契約を断ったはずなのに契約手続きが進められた」、「身に覚えのないオプション契約がついている」といった声が寄せられているという。
ソフトバンクは昨年秋から主要代理店にスマホアドバイザーを派遣するなどして、店頭スタッフの負担軽減を図るとともに、今期からはスタッフの離職率を代理店評価に加え、「働きやすい職場づくり」に着手した。
だが一部の代理店からは「ノルマでプレッシャーかけるくせに、辞めたら代理店に責任を押し付けるキャリア都合のシステムだ」と不満の声が聞こえてくる。
宮内社長は今年5月、社員向けの電子メールで、国内通信で今期7500億円の営業利益を目指す方針を掲げた。M&A(企業の合併・買収)会計の影響などを除けば実質6%成長という控えめな数字だが、一部の代理店にはその利益は自分たちの我慢の上に成り立っていると映っているようだ。両者の溝は深い。
(志田義寧 編集:北松克朗)