最新記事

サイエンス

2020年米大統領選には人工知能が出馬する?

これから30年以内に世界の雇用の半分は機械やAIに奪われる。指導者の仕事は残るのか

2016年2月17日(水)15時53分
アンソニー・カスバートソン

2028年には実現? AIが大統領になったら記者会見はこんな感じかも 出典:http://watson2016.com/

「ほぼあらゆる作業において人間を凌駕する」テクノロジーの登場で、世界人口の半分が今後30年以内に機械に仕事を奪われるだろうと、専門家は警告してきた。

 最近開かれたアメリカ科学振興協会(AAAS)の年次総会で、コンピューター科学者のモシュ・バルディはこう示唆した。自動運転車がタクシー運転手に取って代わり、配達用ドローンが配達作業員の職を奪い、進化した「セックスロボット」が性産業従事者たちを失業させるだろう、と。

【参考記事】人工知能、「予測」を制する者が世界を制す

 来るべき「大失業時代」を免れる職務があるとすれば、その筆頭はおそらく、アメリカ合衆国大統領だ。だがAAASの年次総会が首都ワシントンで開かれていたころ、有名クイズ番組で人間のチャンピオンに勝利したIBMのスーパーコンピューター「ワトソン」を大統領に推す「ワトソンを大統領に」というキャンペーンが行われていた。

 ワトソンの支持者は、世界最高峰のAIなら大量の情報を処理し、教育から外交まであらゆる問題について、十分な情報に基づいた透明かつ公平な決断を下せると信じている。

【参考記事】米軍の新兵器は「サイボーグ兵士」、DARPAが開発中

 ワトソンに論戦を挑む大統領選の候補者まで表れた。ゾルタン・イストバンはマイナーな第3党「トランスヒューマニスト党」の候補者。科学技術によって人間の精神や肉体を強化するトランスヒューマニズムを掲げる同党は、生体工学や寿命延長技術、人工知能(AI)の研究促進を提唱している。

 イストバンも、AIが人間に対して持つ多くの優位性を考慮すれば、コンピューターが国家指導者になる可能性はあると考えている。

被選挙権が問題

「歴史をみれば、世の指導者が持つ大きな問題は彼らが利己的な哺乳動物であったことだ」と、イストバンは本誌に語った。「"AI大統領"は真に利他的であり得る。ロビイストにも特定利益集団にも、個人的な欲求にも影響されない」

「2020年にはAIロボットが討論会に参加し、大統領選で競い合うようになると思う。実際に大統領の地位を手にできるほど精緻なロボットはないだろうが、2028年までには大統領職になってもおかしくない」

 だが、「ワトソンを大統領に」キャンペーンを運営しているのは、「ワトソン2016財団」という名の、IBMとは何のつながりもない組織。現実にワトソンが出馬することはなさそうだ。イストバンがワトソンとの討論会を提案した際も、IBMの広報担当者からは、メールで以下の返答が届いた。

「大変恐縮ですが、IBMのワトソンは大統領選に出馬しておりません。ワトソンは現在、医療や教育の向上のために、医師や教師を手助けする仕事に取り組んでいます。討論のお申し出はありがたいのですが、お断り申し上げます」

 候補者としてふさわしいかどうか以前に、そもそもワトソンは合衆国憲法第2条に記された被選挙権の規定を満たしているのか? 憲法によれば、「大統領になれるのは出生によりアメリカ市民となった者」とある。AI大統領の登場にはもう少し時間がかかりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中