「解決策を100個考えなさい」とティナ・シーリグは言った
ジョシュ・グローバンは、こう言っています。「思いどおりの曲ができると今日は良い日だ、と思う。でも、思いもかけない良い曲ができたりすると、今日は最高だと思うんだ」。ほんとうに革新的なものをつくろうと何時間も集中し、壁を乗り越えたからこそ、そうしたことが起きるのだと、ジョシュは知っています。ツアー中は、毎回二時間の公演を最高のものにすることに集中し、時間も心もそれに捧げる、とも語っています。
スタンフォードでも、学生自身が考える限界を乗り越えるような課題を出して、チームで取り組んでもらっています。まず、三週間かけて一〇〇個のアイデアを出し、一番気に入ったものを選んでもらいます。プロトタイプをつくり、それに対する意見や感想をユーザーから集め、気づいたことを授業で発表してもらいます。その後で、もう一度、最初からやり直すよう命じるのです。
学生の表情がすべてを物語っています。ショックと苛立ちを隠せません。この期に及んで元に戻れというのは、罰を与えられたように感じるのでしょう。ですが、最初からやり直せるのは、じつはチャンスなのだとわかると、苛立ちは消え、受け入れる気になります。一通り最後まで経験したことで、第一弾のアイデアは出揃っていますし、ユーザーからの貴重なフィードバックも手元にあります。振り出しに戻ることで、さらに良いものにするチャンスを手にしているのです。こうして学生はもう一度、課題に没頭します。そして二週間後には、アイデアもプレゼンテーションも各段に良くなっているのです。
やり直しを命じられて最初はしぶしぶ受け入れていた学生も、二回目が終わる頃になると、やり直せてよかったと思うようです。アイデアもプロトタイプもプレゼンテーションも、最初のものは詰めが甘く、まだまだ改良の余地があることを心のどこかでわかっているのです。コースの終了時には、一番楽しかった課題として、やり直しさせられたこの課題を挙げる学生が少なくありません。自分ができたと思う時点で満足せず、最高の成果を追い求めることの大切さを学んだ、と学生は言います。コースの期間がもっと長ければ、私はおなじ課題を何度も繰り返して出すでしょう。繰り返すたびに、波のように新たなアイデアやひらめきが湧いてきて、より良い成果につながるのですから。
無から有を生み出すクリエイティブな行為である起業には、不屈の精神――すなわち粘り強さ――が必要だと、シーリグは言う。「前例のない大胆なアイデアは徹底的に叩かれ、死の寸前まで追い詰められるもの」であり、それに屈することなく「長期にわたってやり続けられるイノベーターだけが、成功することができる」というのだ。
シーリグによれば、思い描く未来にたどり着くために必要なことは3つある。第一が起業家的な心構えで、それは世界各国でベストセラーとなった著書『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)にまとめたという。第二は、問題を解決し、チャンスを活かすためのツール。それは2作目の著書『未来を発明するためにいまできること』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で取り上げた。
そして第三に必要なのが、ひらめきを形にするためのロードマップだ。最新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』のテーマである。
本書に収められたさまざまなエピソードをいくつか抜粋し、シーリグのメッセージと共に紹介した本シリーズは、今回で最終回となる。
※スタンフォード大学 集中講義(1):悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話
※スタンフォード大学 集中講義(2):レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙
※スタンフォード大学 集中講義(3):ある女性の人生を変えた、ビル・ゲイツがソファに座った写真
※スタンフォード大学 集中講義(4):やる気の源を尋ねたら、その会社は数か月後に行き詰まった
※スタンフォード大学 集中講義(5):プライベートジェットで「料金後払いの世界旅行」を実現する方法
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『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
CCCメディアハウス
『20歳のときに知っておきたかったこと
――スタンフォード大学 集中講義』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
CCCメディアハウス
『未来を発明するためにいまできること
――スタンフォード大学 集中講義II』
ティナ・シーリグ 著
高遠裕子 訳
三ツ松 新 解説
CCCメディアハウス