最新記事

スタンフォード大学 集中講義

悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話

「情熱は後からついてくる」――米名門大学で教えられている人生を切り拓く起業家精神の教え(1)

2016年2月3日(水)06時57分

人生は変えられる スタンフォード大学での講演で、「惨めで、最低の人間」だった過去と決別し、世界の8億人に清潔で安全な飲料水を届けるべく慈善団体を立ち上げた経験を語るスコット・ハリソン Stanford eCorner-YouTube

 2010年3月に日本で刊行された『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)という本がある。スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグが「人生を変える方法」を指南した同書は、日本だけで32万部を売り、世界各国でベストセラーとなった。

 このたび刊行されたシーリグの新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)には、こんな男が登場する。タバコに酒、コカイン、ギャンブル、ポルノにストリップ通いと悪行をやり尽くしたが、改心し、世界の8億人に安全な飲料水を届けようと慈善団体を立ち上げる男だ。シーリグはこの男の話から、こんな教訓を提示している――「情熱は後からついてくる」。

 以下、同書の「第I部 想像力」から抜粋する。

◇ ◇ ◇

 スコット・ハリソンの生活はすさんでいました。ナイトクラブのプロモーターとして、客を集めては泥酔させるという生活を一〇年以上続けていましたが、ある日、どうしようもなく惨めな気持ちに襲われます。自分は「がれきの山」を築いてきたのだとしか思えませんでした。スタンフォード大学での講演で、つぎのように語っています。


 二八歳までに、夜の世界に付き物の悪行はやり尽くしました。毎日マルボロを二箱半吸い、酒は浴びるように飲みました。コカインやMDMAにも手を出しました。ギャンブルに狂い、ポルノに狂い、ストリップクラブ通いが止められない。一〇年もこんな生活を続けて、よくも真っ当な人間に戻れたものだと思います。
 南米のプンタデルエステに滞在していたとき、突然、自覚したんです。僕は自分が知っている人間のなかでいちばん惨めで、そのうえ最低の人間だと。僕以上に自己中心的で、滅茶苦茶な人間はいない。何を残したかと言えば、パーティを開いては客を酔っぱらわせただけの人間としての評判しかない。僕は、あちこちにがれきの山をつくってきたのだと気づいたのです。

 そんな生き方に嫌気が差したスコットは、すべてを変えなければという思いに駆られます。「いまとは一八〇度違う生活とは、どんなものだろう」――何週間もそう考えた末に行き着いた答えは、困った人たちを助ける、ということでした。

 そこで、慈善団体をいくつもリストアップし、ボランティアとして働かせてほしいと頼みましたが、ことごとく断られます。およそ人のために汗を流せる人間には見えなかったのです。それでもめげずに門を叩き続け、ついに受け入れてくれる組織に巡り合います。世界の最貧国を病院船で巡回し、無料で医療サービスを提供する非営利組織(NPO)、マーシー・シップでした。旅費を本人が負担すればボランティアとして採用するといわれたスコットは、このチャンスに飛びつきました。

 マーシー・シップでは、二週間を一クールとし、ボランティアの医師が外科手術や薬の処方を行ないます。スコットが乗船した船の行き先は、西アフリカのリベリア。フォトジャーナリストとして、医療サービスを受けた患者の話をまとめる仕事を任されました。この経験でスコットは、苦しむ人たちの世界をほんとうの意味で知ることになります。ひどい疾患に苦しむ人たちに数多く出会いましたが、その多くはバクテリアや寄生虫、下水などで汚染された飲料水が原因でした。スコットが撮った写真には、清潔な水が手に入らないために体を壊した若者や老人の悲惨な姿がありました。

 この問題をなんとかしなければいけない、自分にできることは何だろう。考え抜いた末、ニューヨークに戻ったスコットは二〇〇六年、世界の八億人に清潔で安全な飲料水を届けることを目標に、NPOのチャリティー・ウォーターを設立します。クラブのプロモーターとして身につけたスキルを生かし、世界中の人々から支援を得るべく駆けずり回りました。有名企業の幹部も相次いで支援を約束し、彼らがその影響力を使ってさらに支援の輪を広げてくれました。チャリティー・ウォーターの戦略は単純明快です。地元の組織と相談しながら清潔な水が出そうな場所を探して井戸を掘り、雨水を貯めておく装置をつくり、砂や泥を濾過するシステムを構築していきます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国レアアース磁石輸出、1─2月は前年比8.2%増

ビジネス

米ガソリン小売価格、中東戦争で30%急騰 1ガロン

ワールド

米国防長官、イラン作戦の目標「変わらず」 議会に追

ワールド

EU首脳会議、ハンガリーがウクライナ融資阻止 オル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 6
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    トランプ暴走の余波で加熱するW杯「ボイコット論」..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中