最新記事

BOOKS

辺野古に反対する翁長沖縄知事が「変節ではない」理由

シンポジウムを収録した『沖縄と本土』には、かつて移設推進派だった現知事の「生の言葉」が詰め込まれていた

2015年10月23日(金)18時45分
印南敦史(書評家、ライター)

沖縄と本土――いま、立ち止まって考える 辺野古移設・日米安保・民主主義』(翁長雄志、寺島実郎、佐藤優、山口昇、朝日新聞取材班著、朝日新聞出版)は、「翁長雄志・沖縄県知事と有識者との意見交換の場を」という発案から実現したシンポジウムの内容を収録したもの。

 翁長知事に加え、多摩大学学長の寺島実郎、元外交官・作家の佐藤優、元陸上自衛官で国際大学教授の山口昇、そして司会として、朝日新聞特別編集委員の星浩の諸氏が参加している。

 沖縄県議時代には自民党沖縄県連幹事長を務め、当時は普天間問題で辺野古移設推進派であったことを明らかにしてきた翁長氏は、本人いわく「どっぷりと自民党につかってやってきた」人間である。個人的にはそこに説得力を感じていたが、一方、だからこそ齟齬や誤解が入り込み、本質がきちんと伝えられていないのではないかとも感じていた。事実、翁長氏については、保守から革新に寝返ったと誤解している人もいるだろう。

 このことについては、本書の後半にシンポジウムを受けて佐藤氏が記していることが参考になる。


 日本本土に置かれた米軍基地という面倒な施設は沖縄にもっていく。そして日本本土は平和と繁栄を維持した。こうした戦後の歩みの違いが、沖縄と日本本土との間の「ねじれ」を生み、それが構造的な差別となった。構造化されているがゆえに、中央政府には沖縄に対する差別が見えないのだ。(83ページ、佐藤優「辺野古移設にこだわるほど強まる『沖縄のエトニ』の記憶」より)


 沖縄人は、こうした中央政府のやり方を目の当たりにして、明治政府による1872年から行われた一連の琉球処分、あるいは1609年の琉日戦争(薩摩の琉球入り)といった歴史の記憶と現状とを結びつけている。その根本にあるのは、果たして日本人とこれから一緒に歩んでいって自分たちは生き残ることができるのかという存在論的な不安だ。
 こうした流れの結果としての沖縄と中央政府との関係を、はっきり目に見えるようにしたのが、翁長知事なのだ。(84ページ、佐藤優「辺野古移設にこだわるほど強まる『沖縄のエトニ』の記憶」より)

 パネル討論の中でも話題に出ているように、こうした本質を見極めていけば、翁長氏の言動が変節などではないことがわかるはずだ。保守であろうがなかろうが、翁長氏の内部に根づくのは沖縄人としての自覚である。その本質を貫き通しているだけなのだから、沖縄に対する構造的差別に気がつかない中央政府との間に齟齬が生まれても仕方がないのだ。そしてそのことが明確になればなるほど、日本政府に"なにをどうしたいのか"というはっきりとした意思がないことが気になった。事実、沖縄の問題について追及すべき点があるとすればまさにそこであることが、討論のなかでは示されている。

 また、そういう意味では、本シンポジウムを主催した朝日新聞が社説で展開している「(辺野古への基地移設は)強制的にやるべきものではない」ので「ここは一つ立ち止まって考えよう」という論にも納得できる。辺野古が唯一の解決策だなどという単純な問題ではなく、まずは賛成反対両派が「お互いの違いを知る」ことが重要だからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン首都の自爆攻撃、「イスラム国」が犯行声明

ワールド

米ホワイトハウス、人種差別的な動画投稿を削除 オバ

ビジネス

ジェファーソンFRB副議長、26年見通し「慎重なが

ビジネス

SF連銀総裁「米経済は不安定」、雇用情勢の急変リス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中