ASEANブランドに泥を塗る主要3カ国
死刑をめぐる自己矛盾
タイでは、タクシン・シナワット元首相の一族が率いるタクシン派がバラマキ政策で支持を獲得して、総選挙に勝ち続けてきた。当然ながらタクシン派の政治には腐敗が付き物だった。そうであっても、昨年起きた軍事クーデターとその後の抑圧を正当化するわけにはいかない。
軍が設置した国家改革評議会と憲法起草委員会の中には、真に民主的な憲法の制定を目指すメンバーもいる。多くのメンバーがタクシン派・反タクシン派双方をむしばんできた腐敗と不正を一掃したいと考えている。
しかし、真の改革は和解なしには達成できない。軍主導の暫定議会は1月、インラック・シナワット前首相の弾劾決議案を可決。これで和解は望み薄になった。インラックが問われた罪は、反タクシン派ですら認めるほど見え透いたでっち上げだ。
インドネシアでは昨年、草の根の支持を得てジョコ・ウィドドが大統領に就任。民主化が進展し、人権擁護と腐敗一掃にも弾みがつくと期待された。
しかし、程なく国民はジョコの本気度を疑うようになった。汚職疑惑が取り沙汰されている人物を国家警察長官に指名したからだ(世論に押されて指名は取り消された)。
国際社会がジョコの良識を疑ったのは、麻薬犯罪で有罪になった死刑囚の扱いに関してだ。ジョコは一時停止されていた死刑の執行を宣言。オーストラリア人の2人の死刑囚が近々処刑されることになった。2人の服役態度は模範的で、オーストラリア政府は恩赦を求めているが、ジョコは聞く耳を持たない。
インドネシア政府は外国、特にペルシャ湾岸諸国で死刑を宣告されたインドネシア人200人余りの恩赦を強く求めている。にもかかわらず、自国で収監している死刑囚については、恩赦の嘆願を検討すらしない。これはどう見ても自己矛盾だ。
インドネシアが自己矛盾のツケを払うのは時間の問題だろう。マレーシアはアンワル問題で国際社会の非難を浴びた。タイは軍事クーデターで信用を失い、国連人権理事会の理事国入りを果たせなかった。