最新記事

東南アジア

ASEANブランドに泥を塗る主要3カ国

2015年3月12日(木)17時17分
ギャレス・エバンズ(元オーストラリア外相)

死刑をめぐる自己矛盾

 タイでは、タクシン・シナワット元首相の一族が率いるタクシン派がバラマキ政策で支持を獲得して、総選挙に勝ち続けてきた。当然ながらタクシン派の政治には腐敗が付き物だった。そうであっても、昨年起きた軍事クーデターとその後の抑圧を正当化するわけにはいかない。

 軍が設置した国家改革評議会と憲法起草委員会の中には、真に民主的な憲法の制定を目指すメンバーもいる。多くのメンバーがタクシン派・反タクシン派双方をむしばんできた腐敗と不正を一掃したいと考えている。

 しかし、真の改革は和解なしには達成できない。軍主導の暫定議会は1月、インラック・シナワット前首相の弾劾決議案を可決。これで和解は望み薄になった。インラックが問われた罪は、反タクシン派ですら認めるほど見え透いたでっち上げだ。

 インドネシアでは昨年、草の根の支持を得てジョコ・ウィドドが大統領に就任。民主化が進展し、人権擁護と腐敗一掃にも弾みがつくと期待された。

 しかし、程なく国民はジョコの本気度を疑うようになった。汚職疑惑が取り沙汰されている人物を国家警察長官に指名したからだ(世論に押されて指名は取り消された)。

 国際社会がジョコの良識を疑ったのは、麻薬犯罪で有罪になった死刑囚の扱いに関してだ。ジョコは一時停止されていた死刑の執行を宣言。オーストラリア人の2人の死刑囚が近々処刑されることになった。2人の服役態度は模範的で、オーストラリア政府は恩赦を求めているが、ジョコは聞く耳を持たない。

 インドネシア政府は外国、特にペルシャ湾岸諸国で死刑を宣告されたインドネシア人200人余りの恩赦を強く求めている。にもかかわらず、自国で収監している死刑囚については、恩赦の嘆願を検討すらしない。これはどう見ても自己矛盾だ。

 インドネシアが自己矛盾のツケを払うのは時間の問題だろう。マレーシアはアンワル問題で国際社会の非難を浴びた。タイは軍事クーデターで信用を失い、国連人権理事会の理事国入りを果たせなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中