仏国債格下げでサルコジ「撃沈」
「トリプルA」の死守にこだわった戦術ミスが響き大統領選目前にサルコジがライバルの集中砲火を浴びている
聖女頼み? ジャンヌ・ダルクの生誕600周年記念式典に出席し、「救国の乙女」の胸像を受け取るサルコジ Reuters
フランスのニコラ・サルコジ大統領にとっては、何とも不吉な13日の金曜日だった。米大手格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は今月13日、他のユーロ圏8カ国と共にフランスの国債格付けを引き下げた。
格下げ発表の日は、4月22日に予定されるフランス大統領選の第1回投票日のちょうど100日前。これでヨーロッパ第2の経済大国は最上級の「トリプルA」を失い、国債の評価は1段階下の「AA+」になった。さらにS&Pは、長期国債の格付け見通しを「ネガティブ(弱含み)」とした。
S&Pの発表以前から、複数のエコノミストは市場は少なくとも部分的に格下げを織り込み済みだと指摘していた。ドイツとの記録的な金利差を根拠に、フランス国債は既に格下げされたも同然だという声は、昨年11月から出ていた。
それでも、サルコジにとって政治的打撃になったことは明らかだ。ライバルの政治家たちは、ここぞとばかりに苦境の大統領をたたき、現政権の「失敗」を強調した。
ある意味で、このサルコジたたきはサルコジにとって「身から出たサビ」と言えなくもない。サルコジが5月に行われる大統領選の決選投票で再選を果たすとしても、かなり苦労するだろうと、政治アナリストは言う。
当初、「トリプルA」の維持を譲れない一線と位置付けていたことは、サルコジと中道保守の与党・国民運動連合(UMP)の重大な戦術ミスだったとみられている。与党側はそれによって緊縮財政を正当化し、「責任感の薄い」ライバルに対する有権者の懸念をあおる材料として格下げリスクを利用した。
メルケルの尻に敷かれて
最大野党・社会党のフランソワ・オランド前第1書記が同党の大統領候補に決まった10月、フランソワ・バロワン財務相は、社会党政権になれば「フランスの格付けは2分以内に引き下げられる」と警告。
ところが「トリプルA」からの転落が現実味を帯びてくると、サルコジと与党は態度を一変させ、格下げは大した問題ではないと主張し始めた。サルコジは1カ月前、「新たな困難が生じたが、克服できないものではない」と発言している。格下げ発表の夜、全国放送のニュース番組に出演したバロワンは、社会党の反応を批判してこう言った。「冷静になるべきだ。この問題で国民の恐怖心をあおらないようにする必要がある」
S&Pの格付け見直しは、盛り上がりに欠ける選挙戦の本格的スタートを告げる号砲になるかもしれない。これまでは経済の先行き不透明感を背景に、奇妙なほど静かな序盤戦だった。サルコジが再選を目指すのは確実視されているが、出馬宣言はまだ。一方、オランドも大統領選の政権公約をまだ発表していない。
S&Pの発表が本格的な選挙戦の幕開けになった場合、有利なのは社会党のオランドなのか。それとも有権者は安全策をとって「なじみのある悪」、つまり現職のサルコジを選ぶのか。
サルコジは大みそか恒例のテレビ演説で、「市場も格付け会社も」政府の代わりの決断を下すことはないと国民に語った。だが、それ以前に私的な場で語った「トリプルAを失えば私はおしまいだ」という発言が既に広まっていた。