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アフガニスタン

「オバマの戦争」に終わりが見えた

追加増派か敗戦か──現地司令官の戦況報告がリークされ、このままではベトナムの二の舞になることがはっきりした

2009年9月25日(金)10時00分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

戦場の声 アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル司令官の報告には説得力がある Nacho Doce-Reuters

 国際社会にとって今週は、3つのサーカスを同時に見るようなめまぐるしい一週間だった。国連総会に20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)、ビル・クリントン元米大統領が開催するクリントン・グローバル・イニシアティブ年次会議。ほかにも、小さなイベントがたくさん重なった。

 ただし、その多くは見かけ倒しの外交にすぎず、から騒ぎで世界の注目を集めるだけ。後世、この一週間はむしろ、誰も気づかなかった理由で記憶される可能性が高いと思う。

 それは、アフガニスタンにおけるアメリカのプレゼンスの終わりの始まり、さらに拡大して言えば、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領の8年間にわたる中東政策の終わりの始まりだ。

 アフガニスタン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官が8月にオバマ政権に提出した戦況の評価報告書の非公開部分が、9月21日にリークされた。そこには、1年以内に追加の増派をしなければ「この8年の戦いが失敗に終わる」と書かれていたとされる。

 それに対する反応を見ると、オバマ政権のアフガニスタン政策には2つの選択肢しか残されていないことがよくわかる。

テロリストはコロラドでも生まれる

 一つは増派の要求に応じず、必然的にアフガニスタンからの撤退を始めるという選択肢だ。もう一つは、オバマがマクリスタルの要求を受け入れるという選択肢。ただし、報告書によってますます悪化したアフガニスタン情勢全般への懸念に応えるため、バラク・オバマ大統領は従来よりずっと具体的な目標とタイムラインを設定することになり、それは最終的には撤退の予告につながるものだ。

 アフガニスタンを語るときには常にベトナム戦争の泥沼化とのアナロジーがついて回るが、オバマの周辺は絶対に同じ失敗をしたくないと考えている。アフガニスタンのカルザイ政権が、かつてアメリカの盟友だった南ベトナム政府と同じくらい無能で腐敗している事実は、不安に拍車をかけるだけだ。

 旧ソ連は占領10年目にアフガニスタンから撤退したが、アメリカもその節目まであと2年を切っている。アメリカのアフガニスタン政策が軍事作戦の失敗例として並び称されるのは耐え難い。

 そのうえ、アフガニスタンにおけるアメリカの過激派勢力との戦いは「もぐら叩き」にすぎず、パキスタンに通じる裏口を封じることはできないという現実もある。仮に封じることができたとしても彼らは別の国へ行くだけだ。

 実際、タリバンはイエメンやソマリアでも活動しており、9月19日には米コロラド州在住のアフガニスタン出身の親子が逮捕された。この親子は、アルカイダの訓練を受け、ニューヨークで鉄道の駅を狙って爆弾テロを計画していたとされる。

戦争より国内を固めるほうが効果的

 この深刻な脅威は、2つの重要なポイントを浮き彫りにしている。一つは、アフガニスタンを締めつけることで一部の勢力をつぶすことはできても、同時に新たな敵も生み出しているということだ。

 さらに、テロのリスクを軽減する方策について根本的に発想を変える必要があることも明らかになった。つまり、国連があるニューヨークやG20が開かれるピッツバーグで今週行われているようなアメリカ本土のセキュリティー対策こそ、テロを減らす最良の手段かもしれないということだ。

 最後に、アフガニスタン政策には秘策がある。期待値を設定し直すのだ。

 達成可能な目標を見極めたうえで、それをきちんと達成する。ペースを落とし、改革のための余力をたくわえる。国内問題でも外交政策でも、このアプローチは有効だ。
 
 それができなけば、オバマはブッシュやネオコン批評家と同じように、国際舞台で誰にも真剣に話を聞いてもらえない立場に追いやられることになる。


Reprinted with permission from David J. Rothkopf's blog, 24/09/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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