私たちは全員「キャリー・ブラッドショー」だった...人気の秘密は『SATC』でいちばん「普通」だったこと
We Are All Like Carrie
中心人物はリアルが肝心
弁護士のミランダは独善的で、友達の幸せを素直に喜べない皮肉屋。僕は生まれてこの方ミランダみたいな人間には会ったことがないし、身近な人に「ミランダ型」だと言われたらきっと落ち込む。
実業家のサマンサは、いわば好色な酒神ディオニソスの化身。でも悲しいかな、あそこまで人生を謳歌できる人間は存在しない。
シャーロットは超やり手のアートディーラーなのに、30代後半とは思えないほど初心(うぶ)。恋愛では記憶喪失を疑いたくなるくらい、過去の失敗を繰り返す。
分かりやすい不満や欲求をバランスよく抱えているのは、キャリーだけだ。結婚したいがコラムニストの仕事は犠牲にしたくない。独身生活を満喫しつつ、家庭の幸せにも憧れる。セックスは好きだが、面倒な交際は嫌い......。
誰かに似ていないだろうか。そう、あなたが知っている人のほぼ全員が、キャリーに似ているはずだ。
ほかのキャラクターを特徴づける弱点を、キャリーは全て持っている。ミランダの厭世も、サマンサの自己陶酔も、理性に耳を貸さないシャーロットの恋愛下手も全部。
だが型にはまった行動規範に縛られないところが、3人とは違う。キャリーは多面的で、時には自分の貪欲な本能に逆らったりもする。
ほかの3人にはこの主体性がない。例えばサマンサは戯画的に誇張された性欲に踊らされてばかりで、そんな人物に共感するのは難しい。
これはつまり、キャリーが中心人物だからだろう。中心人物というのは、あまり現実離れしていてはいけない。
僕らはミランダやシャーロットに最悪にダメな自分を、サマンサに最高にイケてる自分を重ねるかもしれない。だが重力の法則により、いつも必ずキャリーとそのナレーションに引き戻される。
自信を失い、くよくよすることもあるが、キャリーは極端にポジティブでも極端にネガティブでもなく、めったに正気を失わない。そこがリアルで人間らしい。