「見せたら駄目」──なぜ女性の「バストトップ」を社会はタブー視するのか?
Nipple Censorship
男性の乳首の写真を張った姿で抗議するパラグアイの女性 AP/AFLO
<SNSを揺さぶり始めた露出禁止への反発。乳首の取り扱いから見えてくる、性差別の構造と本当の意味を考える>
公共の場で「性的に問題」のある乳首を見せないよう、外出時はトイレで授乳する女性たち。年齢や体形を問わず、暑い日はためらわずに上半身裸になって歩く男性たち──。
この10年以上の間、多くのソーシャルメディアは、原則的に女性の乳首の露出を禁止してきた。ポルノ目的の画像の氾濫を防ぐためだという。
ところが、米メタの諮問機関である監督委員会は今年1月、傘下のフェイスブックとインスタグラムに、乳首露出をめぐる方針を見直すよう指導した。メタ自体にも、成人の裸体・性的行動に関する同社の基準を変更して、国際人権基準に合致した明確な指標を設けるよう勧告している。
この知らせに、画期的だと歓迎する声も上がった。だが、企業側が実際にどんな決断をするか、保証はない。彼らの行動原理は自社の利益保護や資金調達なのだから、期待しているほどの変化は起こらない可能性がある。
今回のメタの発表は、アメリカに住むトランスジェンダーとノンバイナリージェンダー(性自認が男でも女でもない)のカップルが、乳首を隠したトップレス画像を投稿したことがきっかけだ。トランスジェンダーの医療問題への意識向上や、胸部外科手術の資金集めが目的だった。
フェイスブックとインスタのアルゴリズムは画像を「性的勧誘」に分類し、削除した(カップルの不服申し立ての後、投稿は復活)。
この一件がメタに行動を迫ったとしても、だからこそ喜ぶのはまだ早い。
フェイスブックやインスタには日々、無数の画像が投稿される。児童や暴力に関する不適正な画像の投稿を阻止し、ポルノなどの流通に利用されることを防ぐために投稿内容を管理するのは、困難でカネがかかる。より安価な手法がアルゴリズムだが、人間の目で内容を評価する場合と比べて判断力は劣る。
近年では、女性の身体的表現の自由を訴える「フリー・ザ・ニップル(乳首を解放しよう)」キャンペーンや、上半身裸の先住民女性を被写体にしたアート写真や文化的な画像を投稿する権利を主張する運動が起きている。それにもかかわらず、SNSは長らく変化にあらがってきた。
人々の考え方や行動に、今やSNSは巨大な影響力を持つ。そのせいで、年齢不詳の非現実的な美しさが称揚され、醜形恐怖症や摂食障害、美容整形の広がりを招いている。
ユーザー側は「検閲」を回避するため、女性の乳首の上に男性の乳首を張り付けた画像を投稿するようになっている。これなら規制されることはないが、女性の乳首を男性の視線にとらわれた性的部位と見なす姿勢は変わらない。
フェイスブックやインスタが従来の方針を見直したとしても、トランスジェンダーやノンバイナリーの人の乳首の露出だけを認めるならどうか。シスジェンダー(心と体の性が一致している)の女性の乳房や乳首は、今後も性的対象にしていいというシグナルを発することになりかねない。
欧米文化では多くの場合、女性の乳首の露出はタブーで、時に違法ですらある。対照的に、ファッション誌や広告にあふれるトップレスのたくましい男性のイメージは、必ずしも性的とは見なされない。
となると、ある根本的な疑問が浮かび上がる。女性の乳首は性的にならざるを得ない存在なのか──。
女性の胸などの特定部位に、男性は性的視線を注ぐようにできているという説もある。だが、体のどこがエロチックかは、時代や文化によって見方が変化してきた。
重要な役割を果たすのは宗教、および文化的基準だ。温暖な地域では、かつて上半身をあらわにするのは男女とも普通のことだったが、12世紀にイスラム教の影響が強まるとそうではなくなった。
イギリスでは、乳首よりも脚やふくらはぎのほうがきわどいとされた時代もある。中世から18世紀頃にかけてのヨーロッパ絵画には、片方の乳房や乳首を露出させた女性が繰り返し登場している。
女性の体は誰のもの?
実際、当時の女性は、乳首に化粧を施して赤みがかった色にすることが珍しくなかった。乳首が(意図的であれ、偶然であれ)衣服からのぞいても、大騒ぎもタブー視もされず、「その気」がある印と見なされることもなかった。
一方、アメリカの多くの州や都市では1930年代後半まで、男性も公共空間での胸の露出を禁じられていた。性別を問わず、裸体はわいせつなものとされていたからだ。
女性の乳首露出をめぐる議論は、ある事実を示唆している。女性の乳首を性的と捉えるのは文化的現象であり、それによって男性は女性の体を支配していて、女性の体をけなすのは、自分たちの当然の権利だと思っている。
イギリス人女優のフローレンス・ピューは昨年、乳首が透けて見えるピンクのドレス姿でファッションショーに出席した。その際に受けた批判について、ピューはインスタにこう投稿している。
「興味深いのは......男性がどれほど簡単に、公的な形で、堂々と女性の体を無効化できるかということ......私の『貧乳』にどれほど失望したか、自分の平らな胸を恥ずかしく思うべきだと、多くの男性が熱心に教えようとした」
Lorraine Green, Senior Lecturer in Social Sciences, Edge Hill University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.